「最後まで、してない。出来なかった。当たり前だけど、お前以外とは、出来なかった」
博之とは違う男を下に眺めながら、罪悪感と苛立ちが聖を支配した。
答えがはっきりしてしまった今、これは裏切りにしかならないと気付いた。
独りで居たがる彼は、自分以外に懐かなかった。そう自信があった。抱かれているのは、自分を、許しているからだろう。
だからこの行為は、決して知られてはいけないことなのではないか。
「ばれねぇとでも、思ってたのか」
「ばれなきゃいいと、思ってた」
全てを棚に上げて、見ない、見せない振りをし続けた。
関係が、変わってしまわないように。
けれど聖にとっても彼が唯一の存在だと気付いたとき、博之はそぞろに意識を浮遊させはじめた。まるで、少しずつ最初に会った警戒心が再び彼を覆い隠すように。
どうして。自分には、お前だけなのに。お前は、違うのか。
絶対の自信が、徐々に、揺らいでいく。
「なあ」
聖は、博之の首に指を伸ばし、絡める。
「俺達は、」
力は無い。圧迫感だけが肌に触れた。
「どうなれると思う?」
視線が合う。聖は眉間に皺を寄せて、苦々しい笑みを浮かべた。
博之はそれを見て瞳を細め、聖と同じように、笑った。
「知るかよ」
すれ違って、疑い合って、それから、それから。
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