おたわな | ナノ


満足感と一抹の寂しさ
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先程まで沢山の生徒の熱気に包まれていた体育館も、今はすっかり人が掃けて静寂に包まれている。館内の至る所に施されていた装飾も、実行委員達の手によって片付けられ、元通りの体育館になった。

後は体育館を閉めて、鍵を職員室に戻せば今日の実行委員としての役割はもうおしまい、なのだが。私はもう少しだけ、文化祭の後の余韻に浸りたくて、後輩達を先に帰して一人体育館に残った。

ステージに腰掛けて、館内をぐるりと見渡せば、この文化祭に向けて頑張ってきた様々な事思い出して、無事成功に終わらせられて良かったと思う一方で、もう終わってしまうのだと思うと、寂しさが募ってくる。

「お疲れさん」
「ひぁ!」

不意に頬に冷たいものが当たって悲鳴を上げながら振り向くと、この文化祭の実行委員長を努めた、同じクラスの男子生徒が、コーラの缶を二本持って立っていた。どうぞというように差し出してくる一本を受けとって、礼を言う。

彼はもう一本の缶を開けながら私の隣に腰掛ける。そのまま暫く沈黙が続いたけれど、彼もまた、文化祭が無事に終わった満足感と寂しさを感じているのだと、その横顔を見れば分かったから、私も無言のまま、心地好い沈黙に浸っていた。

「終わっちゃったな」

先に口を開いたのは、相手の方からだった。

「うん、終わっちゃった…もう、あのメンバーで集まることもないね…」
「そう、だな…」

そのまま、また沈黙が落ちる。今度は、何かを言わなくちゃと思うものの、何を言えば良いのか分からなくて、ちらと相手の顔を窺うように横を見れば、相手も此方を見ていて、視線が混じり合う。

「あの、な。俺、お前が実行委員の副委員長になってくれて、良かった」
「っ…」
「みんなを盛り上げるのは得意だけど、仕切ったりするのは苦手だったからさ。そういう意味で、お前がいてくれて助かったよ」
「ありがとう。そう言ってくれると頑張ったかいがあるし嬉しいな」
「それに…今まで同じクラスなのにあんまり話せてなかったから…実行委員をきっかけに沢山喋れて嬉しかったし」
「え…」

思わぬ言葉に相手の顔を見れば、頬や耳が赤く色づいていて、つられたように私も頬が熱を持つのを止められなかった。

二人とも顔を赤らめて暫く俯いていたけれど、やがて「そろそろ帰ろうか」という彼の言葉に、もう少しこのままでいたいという名残惜しい気持ちを我慢して立ち上がる。スカートが翻るのも気にせずステージから飛び降りて振り向けば、彼はどこか眩しそうに私のことを見ていた。



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とある創作お題診断で、森野林檎は、静寂に包まれた体育館 が舞台で『コーラ』が出てくるトキメク話を3ツイート以内で書いてみましょう。という結果が書いてみたので文化祭が終わった後の体育館がパッと出てきてお話書いてみたらとても3ツイート以内に収まらなかったのです…


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