抱きしめて
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


「しろ、ちょっとこっち」
「へ?」

来い来いと手招きすれば、きょとんとした表情のまま、素直に近付いてくる。その無防備な様子に、少しは警戒心というものを持ったらどうなのかと思うこともあるが、それでもこうして自分の懐に飛び込んでくる素直さを好ましく思っている。

「そこじゃなくてこっち」
「えっ…」

隣に座ろうとした四郎兵衛の身体を引いて、抱き抱えるようにして座る。そのままぎゅうっと強く抱きしめると、顔を真っ赤にした四郎兵衛があせあせしなから逃れようとする。

「せ、先輩…どうしたんですか?」
「ん…ちょっとだけ充電?」

そう言って、四郎兵衛のふわふわした髪に顔を埋めてすりすりすると、どことなく甘い香りが漂ってくる。

「しろ、なんか甘い匂いがする」

えっ、そうですか?と自分でもくんかくんかと匂いを嗅ぐ四郎兵衛の、髪がゆらゆらふわふわ揺れて、三之助を誘うように首元がちらちらと目に入る。

(あ、やべ、むらむらしてきた)
そう思ったらもう、止まらなくなって。

「うひゃっ!?」

ぱくっと首筋に噛み付けば、びくんと身体を震わせて、噛み付いたところに手を当てて此方を睨みつける。少し涙目になっているので、ちっとも怖くないが。

「な、何するんですかっ!」
「だって、美味しそうだったし」
「僕は食べ物じゃないんだなぁ…」

ううっと困惑と恥ずかしさとその他複雑な表情を浮かべる四郎兵衛に、またむらむらしてきたけれど、また機嫌損ねたら嫌だなと我慢した。代わりに、ぎゅうっと改めて四郎兵衛を抱きしめて、ひっそり息をつく。

何となく朝から感じていた心のもやもやが、今はすっかりなくなっていた。

「しろのおかげだな」
「へ?」

はてなマークを飛ばしている四郎兵衛に、何でもないと苦笑して、また四郎兵衛の抱き心地をじっくり堪能したのだった。



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お友達の誕生日に捧げた次しろ作品です。




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