嘘つきは泥棒の始まり
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「好きよ、レイン」
「おやおや、それは光栄ですねー」

私が彼にその言葉を言う度に、レインは肩をすくめて曖昧に笑うだけ。戯れや冗談で言っているのではないのに、真面目に取り合ってもらえず、さらりと軽く流されてしまう。

「ボクもキミのこと、嫌いじゃないですよ?からかいがいがありますしねー」
「それって、好きというのとはまた違うのかしら」
「……さあ、どうでしょうね?」
「……」

意味深に笑うレインの笑顔に、どうしようもなく溜息が漏れる。

「He that will lie will steal.」
「……?えっと…?」

突然レインの口から流暢な英文が飛び出す。普段当たり前のように日本語を話しているから、時々こうして英語が飛び出すと戸惑ってしまう。ところどころ分かる単語は拾えたものの、どんな意味の文章を言ったのかが分からず、首を傾げる。そんな彼女の様子を一瞥して、レインはさらに言葉を続ける。

「直訳すれば、嘘をつく者はいずれ盗人になる…という意味なんですよー。ああ、でもキミにはこう言った方がピンと来るんじゃないですかねー?」


――嘘つきは泥棒の始まり、ってね。


悪戯っぽく笑ってそう言うレインの両の眼は、撫子の瞳をじっと見据えていて。彼が何が言いたいのかは考えずとも分かった。

「私の言葉が、嘘だというの?」
「そりゃ、そうでしょう。だって、君が好きなのはボクじゃなくて鷹斗くん、でしょう?」
「ちがっ…私は、本気で貴方を、」
「はたして、そうですかねー?」

ずいっと顔を近付けて、至近距離で視線が交わる。まるで心の奥を覗き込まれるような錯覚に陥り、目を逸らしてしまいそうになったけれど、撫子も負けずにレインの目を見つめた。やがて、逸らしたのはレインだった。

「……そろそろ、ボクは仕事に戻りますねー」

まるで撫子から逃げようとするかのように、撫子から離れていく。待って、と引き留めようと伸ばした手からするりと身をかわして、ドアを開ける。

「レインは卑怯者だわ」

撫子の拗ねたような呟きが聞こえたのだろうか。彼は振り向いて感情の読めない笑顔を向ける。

「ええ、そうです。ボクは卑怯者ですから。キミの気持ちにも、ボクの気持ちにも、素直になれないんですよー」
「え……?」

それでは、まるで。レインの言葉の真意を尋ねようとした時、もう既に彼は部屋から出てしまっていた。ぱたん、と閉じた扉を、撫子は暫くの間見つめていた。






(あとがき)
レイ撫Webアンソロ企画、Never Everに投稿させて頂いた作品です。



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