君の髪に揺れる花飾り
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「こんな感じかしら…?」

帯を締めて、一息つく。何度か自分一人で着物を着た経験はあったから、手順はなんとなく覚えてはいたものの、あまり自信はない。そもそも、小学生の時と此方に連れて来られた今では身体の大きさ等が違う。

「もしもし、撫子くん。もう着替え終わりました?」
「ええ、もう入って良いわよレイン」
「では失礼しますー。ああ、やっぱり撫子くんには着物似合いますねー」

部屋に入るなりそう述べたレインも、何時もの白衣姿ではなく、濃紺の和装に身を纏っていた。

「初めて着物というものを着てみましたけど、随分と動きにくい格好ですねー」
「そうね、確かに。それにしても鷹斗は一体何を考えてるのかしら、いきなり着物を着て食事会だなんて」
「さあ?単にキミの着物姿を見たかっただけなんじゃないですかね?」

どうでも良さそうに呟いて肩をすくめるレイン。そして、彼の言葉を否定出来ない自分。きっと鷹斗なら、そんな理由で食事会を開く事も有り得るだろうと思ったからだ。何せ撫子を手に入れるために人工転生まで行った人である。

「ああ、そうだ。実は仕事でこんなものを貰ってきたんですがー」

そう言ってレインが広げてみせた手の上には、黒塗りに薄紅色の花飾りのついた華奢な簪だった。

「へえ…綺麗ね、この簪…」

 そっと手に取れば思っていたよりも軽くて、何の気無しにその簪を自分の髪に当ててみたりする。

「気に入ったならあげますよ?」
「え、良いわよ別に」
「どうせボクは使いませんしねー」
「……じゃあ、お言葉に甘えるわ。ありがとう」
「いえいえ、喜んで頂けたようで何よりですよー。早速つけてみてはどうです?」

小さく頷いて、おろしたままだった髪を結わえ、簪を丁寧に差し込む。薄紅色の花飾りが、撫子の黒髪によく映えていて、まるで撫子の為に作られたように良く似合っていた。

「どう、かしら?」

ちょっと照れ臭い気持ちになりながらも、似合うだろうかと問うてみれば、どことなく優しい目をしたレインが小さく微笑んで頷いた。珍しいものを見た、と思った時にはもう何時もの澄ました顔に戻っていたから、もしかしたら気のせいだったかもしれないけれど。

「さあ、そろそろ行きましょうか。キングがお待ちかねですよー」


(うっかり君の頭を撫でてしまいそうになった、なんて秘密)







(あとがき)
お正月にTwitterにて募ったリクエストでは撫子に簪と、うなじに落ちたほつれ髪で色気を、との事でしたが…色気は無理でした…





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