依存 | ナノ


 01



「岳って呼んでえぇ?」
「名前で呼ぶな失せろ」
 これが山下雄一と仁科岳の運命の出会いになるとは、この時には誰も思いもしなかった。


 満開の桜並木を抜けて、立派な校門をくぐる。お金持ちが通う全寮制の学校というだけあって、ほとんどの新入生は中学からの持ち上がりで、外部から新たに入るのはあまりいないようだ。
 雄一のようにここまで山の麓からバスで来たのも数人だけで、リムジンや高級車が門の前に何台も停まっていた。
 お金持ちが通う、とは言われているが、学費がべらぼうに高いということはない。そういった層の子どもが多く在籍しているので、コネクション作りに同じような界隈の家柄の子が通い始めるといった循環を繰り返していく内に、今のような状態になっているのだ。
 特にここ数年は、御堂グループにMIZUKIコーポレーションと、知らない人がいないくらい有名な大手企業の後継者が在籍していることもあり、倍率は右肩上がりで入学試験の平均点も比例して上がっている。共学でなかったのが救いだった。
 男子だけでこの競争率なのだ。女子もいたら合格ラインから落ちていたかもしれない。
 そう、男子校のはずなのだが、雄一が学園内に足を踏み入れてから、何故かキャアキャアと黄色い声が聞こえてくるのだ。

「なんや……」

 声が聞こえてくる方へ顔を向けると、女子と見間違うような小柄で華奢な男子と目が合った。制服を着ていたので男子だと雄一は思ったが、制服でなければ分からないほど可愛らしい見た目をしている。
 今日は入寮するだけで、新入生は私服で来ている。彼以外にも部活の宣伝や冷やかしなのか、制服の人がいるのでおそらく上級生だろう。
 目が合った以上無視をするのもどうかと思い、雄一は軽く会釈をする。途端により一層大きい歓声が上がった。
 予想外の反応に、雄一はギョッと肩を跳ね上げた。まるでアイドルにファンサを貰ったかのような盛り上がり方だ。

「え、何なんや……こわ……」

 騒がしいのは苦手ではないが、一方的によく分からない騒がれ方をするのはどう対応したらいいのか扱いに困る。
 部活の紹介をじっくり見たい気持ちより、変な絡まれ方を避ける方を選び、雄一は寮へと急いだ。
 山の上の敷地を広々と使って建てられているだけあって、校門から寮までもそれなりに距離があった。寮というよりホテルではないかと思わせる豪華な外観に、ここで合っているのか少し不安になりながら中へと入った。
 中に入るとエントランスがあり、カードキーを受け取るために新入生たちが列を作っていた。雄一も列に並び、数分ほどでカードキーを受け取ることができた。
 エレベーターで7階に上がり、部屋を探す。

「えーっと、ここか」

 部屋番号の下にあるネームプレートに自分の名前が書かれているのを確認して、もう一つのネームプレートにも目を通す。基本的に寮の部屋は二人一部屋になっており、雄一の同室者は“仁科岳”というらしい。

「かっこえぇ名前やな……」

 貰ったばかりのカードキーでロックを解除して部屋に入ると、共有スペースに置かれているソファーからはみ出している脚が見えた。近づいてみると、オレンジ髪で鼻筋の通った綺麗な顔立ちの長身の男が眠っていた。

「……名前も顔もえぇんか」

 深く寝入っていなかったのか、ぼそりと雄一が呟いた声にふるりと瞼が震え、ゆっくりと開かれる。ぼんやりと雄一を見据える瞳は茶色く、切れ長でクールな印象を受ける。
 意識がしっかりしたのか、急にがばりと勢いよく起き上がると眉間に皺を寄せて雄一を睨んだ。

「誰だお前」
「同室の山下雄一、よろしくな」
「……」
「あ、部屋どっち使う? 俺右でもえぇ?」
「……」

 会話が成立しないまま、岳は左の部屋へ段ボールを抱えて入ってしまった。ばたん、とドアが閉まった後にガチャリと鍵が閉まる音もした。

「俺なんか怒らせること言うたんやろか……右の部屋がよかったとか?」

 ぽつんと共有スペースに取り残された雄一は、とりあえず荷物の片付けに取り掛かった。






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