俺様 | ナノ


 01



 桜の咲く四月、静まりかえる体育館。
 端麗な顔をした男子生徒は、眩いほどに照らされたステージ上から、大勢の新入生を見渡して言い放った。

「俺は面倒臭い奴は嫌いだ。だから余計な手間はかけるな、以上」

 余りにも傲慢かつ上からな挨拶に、唖然とする新入生たちであったが、次第に歓声が沸き起こる。それが、今年度からの生徒会会長――御堂瑛の新入生への挨拶だった。



*****



「あっきー! おっはよー!」

 バンッ、と盛大に音を立てて開かれた豪華な扉から現れたのは、全く同じ顔をした二人。少し高めな澄んだ声も同じで、唯一違うのは、前髪を結んでいる髪ゴムの色だけである。
 綾瀬瑠伊と結伊、所謂二人は一卵性双生児で、いつでもどこでも二人一緒である。生徒会庶務になる時も、二人で一人と言って聞かず、庶務が二人選出されるという異例の体制となった。
 扉を開けた時の勢いそのままに、二人はある一点めがけてダッシュした。華奢な体格とはいえ、男子高校生だ。突進された相手がノーダメージで済むとは限らない。

「うっ……、お前ら、いきなり突進してくんの止めろっつっただろうが!」
「あっはは! ごめんなさーい」

 先程の入学式で、新入生へ向けての歓迎の挨拶とは言えないような発言をした生徒会会長――御堂瑛に、二人は半ばタックルしている状態で抱きついた。それはちょうど鳩尾にクリーンヒットし、瑛は痛みに顔を顰めた。

「謝る気ねぇだろ。あとその変な呼び方止めろ」
「えーなんでー?」
「僕も瑠伊も気に入ってるのに」
「瑠伊、結伊。会議を始めますからちゃんと席に座りなさい。それと、もっと普通に部屋に入ってきてください」

 わいわいと騒いでいる中、ぴしゃりと言い放ったのは、副会長である水城那智だ。笑顔ではあるものの、「逆らったらどうなるか分かってるよな?」という副音声が付いてきそうな黒いオーラを発している。

「次騒いでみなさい、……潰しますよ?」
「ヒッ……」

 那智はにっこりと笑みを深くするが、目はこれっぽっちも笑っていない。生徒会室にいた那智以外全員が、ひくりと顔を引きつらせた。

「それと、瑠伊、結伊……瑛に抱きつくのはやめなさい」

 那智はすたすたと三人の元へ歩くと、べりっと瑛から双子を引き剥がした。ぶーぶーと二人は文句を言っていたが、瑛に会議が始められないと怒られ、渋々自分たちの席へと座った。
 会議を始めようとしてから三十分ほどで、ようやく落ち着きはじめ、瑛は資料を全員へと配った。

「……会議を始める。今度の新入生歓迎会について何か案はあるか?」

 魔王降臨もとい那智のおかげで、まともに会議を始めた生徒会には、彼らの他にあと二人いる。

「はいはぁ〜い、みんなでぇ仮装パーティーとかぁ楽しそうだと思いまぁす!」

 元気よく手を挙げ、満面の笑みを浮かべながら、一人の男が立ち上がった。ゆるい喋り方で、チャラチャラとした恰好をした彼は、会計の斎原夏希である。
 美人と形容される容姿に加え、人柄の良さとたまに見せるどこか謎めいた笑顔で、彼は絶大な人気を誇っている。
 夏希の親衛隊もまたどこか謎めいている。夏希のファンであるのに夏希以外にも目を輝かせていたりして、よく分からない集団である。
 しかし、親衛隊の中で一番結束力が強く、夏希とも普通に交流をしている穏健派で有名だ。

「予算の都合はつくのか? それならパーティーというのは面白そうだから俺は賛成だな」

 凛々しい落ち着いた口調で夏希の意見に賛成したのは、書記の高坂恢斗。剣道部主将であり、彼の親衛隊員全員のお兄さんのような存在である。彼の親衛隊も和気あいあいとしていて、全体的に小柄な生徒が多く在籍している。
 恢斗からの質問に夏希は自信満々で答える。

「仮装はねぇ各自で好きなのを持ってきてもらっちゃえば、パーティー予算だけで大丈夫だよ〜」

 にこにこしながら、しかし、やけに熱く夏希は言葉を続ける。

「生徒会は生徒会でテーマ決めて、仮装したら盛り上がるんじゃないかなぁ〜って思ったんだよねぇ」
「面白いのにするなら僕らは賛成するー」
「例えばどういうのにするんですか?」

 周りが食いついてきたのを見計らって、夏希は瑛を見据えた。その何かを含んだ視線に気づいた瑛は、あまりにも夏希がにやけたままなので、どうも気になって夏希に話しかけた。

「夏希、どうかしたのかよ」
「えっとねぇ、テーマはギャップm……ごほん! 普段とは違った生徒会だよぉ。いつも制服姿でしょ? みんな違う服着て設定とかも決めて挨拶したらぁ、喜んでくれるんじゃないかなぁ?」
「それが俺を見てるのとなんか関係あんのかよ」

 ひたすら首を傾げながら、全く意味が分からないといった様子で瑛は言った。

「考えてみてよ、俺様瑛がメイドさんとかぁ?」
「……は?」

 その提案は、それまで和気あいあいとしていた生徒会室の雰囲気をがらりと変えた。夏希の発言によって、生徒会室はしんと静まりかえる。
 ただ瑛だけは、盛大にしかめっ面で反論に出ていた。

「そんなん気持ち悪いだけだろ……でかい男が女装して喜ぶわけねぇよ」
「え〜? そぉかなぁ? 瑛って意外と腰とか引き締まってて細いし似合うんじゃない〜?」

 全員が瑛をじっと見て賛成だと言った。双子は大笑いしながら。
 瑛に関することに対してのみ、ツッコミ役がいなくなる生徒会。軌道修正を図ろうとも、瑛の逃げ場はすでにどこにもなかった。
 皆どのような形であれ、瑛に好意を抱いている。だからこそ、この団結力は生まれているのだが、瑛としてはマイナス要素が多いチームワークは発揮してほしくないのが本音だ。

「お前らなんでそういうくだらねぇことになると意気投合すんだよ!」
「まぁ、生徒会の衣装は俺が持ってくるからぁ、とりあえず瑛は賛成?」
「勿論いいですよね瑛」
「ちょっ、那智お前勝手に決めてんじゃねぇ! 俺はそんなん認めねぇ!」

 那智はかなり真剣に、瑛をメイドにしようと真顔で瑛に決定を促している。それを見た夏希はあと一押しだと、さらに畳み掛ける。

「へぇ〜、瑛は出来ないんだぁ?」

 夏希が煽るように言えば、周りもそれに続く。

「あっきー恥ずかしがってるのー?」
「瑛が嫌がっているなら他のにしようか」

 追い討ちを掛けるように馬鹿にされ、普段から真面目な恢斗が申し訳なさげにしているのを見た瑛は、「そんなんじゃねぇ! 何だろうがやってやろうじゃねぇか! ただしお前らも女装だからな!」と、まんまと乗せられ、女装することを認めてしまったのだった。
 瑛を肯定させるのには苦労しない。生徒会のメンバー達の流れるような連携プレーはこういった場面でしか発揮されない。非常に残念である。
 嬉しそうにはしゃぐ役員達、その中でも夏希はやけに嬉しそうに、一人微笑んでいた。
 否、にやけていたのかもしれない。







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