▼ 戦略的撤退希望
「会長! 助けてくださいぃいいっ!」
会長こと青口は、開けたドアを一旦閉めた。中から庶務が薄情者と叫んでいるが、誰でも現実逃避したくはなるだろうと心の中で言い返す。
三日ぶりにぐっすりと睡眠を取り、清々しい気分で寮にある自室から生徒会室へと足を運んだ。寝ぼけているだけかもしれないと、青口はドアに頭突きをしてみた。無駄に頑丈なドアだということと、今見た光景は青口がボケている訳でもなく、現実であることは分かった。
もしかしたら、役員達が仕掛けたドッキリという可能性もある、と青口は考えた。そう考えれば、ばくばくと脈打つ心臓も少し落ち着いた。
もう一度、ドアを開く。先ほどより乱れた服装で、庶務は絡まれていた。
「また科学研究部がやらかしたみたいでっ」
青口が近づいてきたのを視界に捉えた庶務が、息も絶え絶えに報告をする。青口の気配を察知したのか、庶務に絡みついていたそれは、くるりと向きを変えた。
科学研究部は頻繁に実験をしては何やらトラブルを巻き起こすのだが、魔族に対抗するアイテムの開発にも貢献している為、廃部にも出来ず扱いに困っていた集団だ。
今回はどうやら試験体であろう魔族が脱走らしい。
「これはスライム、か?」
日常で見るスライムは触手を出せない筈なのだが、科学研究部が関係しているのならあり得ないことではないだろう。青口はまた厄介なものをと、溜息を吐いた。
一番の問題は、本来は人間を怖がってすぐに逃げる人畜無害な筈のスライムが、積極的に庶務を襲っていることだ。しかも、性的な意味で。
「かい、ちょ?」
「喋れるのかお前」
「すごい、まりょく」
「魔力の察知も出来るのか」
なかなか優秀らしいスライムに、青口はクツクツと笑みを溢した。
しかし、庶務は笑っている場合じゃないですよと、未だ解けない触手による拘束に悪戦苦闘している。そこで青口はおや? と不思議そうに庶務を見た。別に庶務は弱くない。
むしろ、ありとあらゆる魔法を使いこなす、魔道士の中でもランクが上の賢者であるのだ。
「何もたもたしてんだよ」
「このスライム、魔力を吸収するみたいでっ、あっ、ちょっ、やめ!」
なるほど、と青口は下級魔法を唱えスライムへと放った。
すると、口と思われる部分へ放たれた炎魔法が吸い込まれていき、ぱくっとスライムはそれを食べた。味わっているのかもぐもぐと口を動かすスライムに、青口は強行突破に出ることにした。
いや、出ようとした。
「うわっ」
「会長っ!」
散々絡みついていた庶務からパッと離れ、スライムは会長へとターゲットを変更したらしい。口だけではなく、触手からも魔力は吸収出来るようで、抵抗の緩んだ青口をあっという間に拘束してしまった。
「く、そっ! 離せ!」
「おいしそう、かいちょ」
「おい、待て脱がそうとすんな! 庶務なんとかしろ!」
「無理ですってばぁあああ!」
魔法を無効化されたも同然の庶務が、青口を救助出来る筈もない。
さらに、先程までの貞操のピンチが余程トラウマとなってしまったらしい庶務は、隅まで一目散にダッシュしプルプルと震えている。
くそッ、と青口は舌打ちをした。青口は魔力の量も賢者並みにありながら、専らその膨大な魔力で強化した剣を用いて闘う剣豪である。
つまり、魔力勝負より力勝負の方が得意分野なのだ。その青口が、改良されているとはいえ、魔族の中で最弱と分類されているスライムを相手に手も足も出ない。引き剥がしても、新たに絡みついてくる触手に動きを封じられ、なす術なく青口は制服を剥かれていった。
「つ、めてぇんだよ! くそ、離れろ!」
「すぐ、ぽかぽかなる。だいじょうぶ」
「大丈夫じゃね、ひっ! やめろ!」
ぬるりと触手が、青口の萎えたままの性器を撫でた。庶務以外の役員達は、まだ来ていないらしい。
「ん、くっ…! 庶務! あいつら、いますぐ呼んで来い!」
触手オプション付きのスライムから性的な攻撃を受けながらも、すっぽんぽんのまま縮こまっている庶務に青口は指示を出した。
これで庶務が指示通りに動けば、まだ間に合う。
「じゃま、だーめ」
「うおっ! 離せ、待てお前!」
そんな甘い考えは、未知数の能力を持ったスライムには通用しなかった。50cm程のスライムにしては大きいとはいえ、人間からしてみれば小さな体で、決して華奢ではない青口をぐっと持ち上げ、そのまま仮眠室へと移動し始めた。
「かわいがって、やるよ?」
「お前はちょっと黙れ」
仮眠室の扉が開かれ、青口はこれ以上別の新しい扉を開いてなるものかと、必死に触手を振り解こうとした。庶務が仮眠室の扉を閉じられないように、必死に引っ張っていたが、ジリジリと扉は閉じられていった。
「かいちょ、わたさない」
ガチャリ、と鍵のかかる音が聴こえた。そういえば、最中に乱入されて萎えるのが嫌だからと、仮眠室の鍵はベッドサイドの引き出しに入れていたことを青口は思い出した。
しかも、魔族対策も万全で、扉を破壊して突破することも難しい。
つまりは、この状況を自分だけでなんとかしなければならない。丸腰どころかすっぽんぽんのままで、更には魔法も力も相手には脅威になり得ない。尻の扉を突破されるのも、時間の問題だ。
「きもちよく、してやるよ」
表情、と言っても良いのかは分からないが、ドヤ顔をしていそうな雰囲気を漂わせるスライム。台詞だけはかっこいい、しゃかしゃかと動く触手さえなければ。
「魔力が食いたいだけならいくらでもやるから、近づくな」
「かいちょ、まりょくだけじゃない。かいちょがほしい」
ストレートな物言いの、どこまでこのスライムは言葉を理解して言っているのか。青口は再び与えられ始めた快感に、意地でも流されてたまるものかと歯を食い縛った。
ぬるりと絡みつく触手は、確実に青口を快楽の頂へと登り詰めさせる。繰り返される愛撫は瞬時に青口の反応を覚えて、ポイントを的確に突いてくる。ダラダラと濡れそぼった愚息に、青口は泣きたくなった。
「も、やめろ!」
「きもちいいだろ?」
「今すぐ離せ!」
「むり、かいちょ、にげる」
結局、ああだこうだ言ったものの数十分しか時間を稼ぐことが出来ず、今まで一度も触らせたことのなかった尻の穴やら尿道やら、最初から濃い内容に青口はベッドに沈んだまま動けないでいた。
「まだすねてる?」
「拗ねてねぇし、最悪だ」
「さいごはもっと、もっとってかわいくおねだりしてたのに?」
「うわぁああああ! 気のせいだ!」
青口は意地悪く笑みを浮かべるスライムに、呪文を唱えて攻撃を放った。もう既に、スライムの微妙な表情の変化が分かるようになっていることには、青口は気づいていないようだ。
次々飛んでくる魔法を全て吸収し、まだやる気かと触手を伸ばす。
「ひっ、もうそれは出すな!」
「じゃあ、なまえ、よんで?」
「……みかん」
「かわいい、ときわ」
どうしてこんなイチャイチャしているんだか、青口は流されかけている自分に頭を抱えた。
戦略的撤退希望
(最初からリセットで)
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○青口常葉(あおぐちときわ)
学園一の剣豪、生徒会長
みかんに絆されつつある。
○みかん
改良されたスライム
青口が大好きで堪らない様子。