俺様会長受けアンソロ企画T



騒々と落ち着きのない校内で、山田は冷静に目の前の人物に対峙していた。
いや、目の前の人物達と言ったほうが正しい。
鬼気迫る表情からただ事ではないことは、状況を把握していない者から見ても理解出来る。
そんな群衆の注目を浴びる中、山田は呆れた顔で、対峙している会長親衛隊の面々を見た。

「意味が分かりません」

ごくごく一般家庭育ちの、六人兄妹の長男である山田は、一人の幼い女の子に捕まっていた。
ついでに何故か、俺様何様生徒会長様とその親衛隊も釣れてしまい現状に至る。
―――どうしてこうなった。
山田はさようなら平凡な人生よと、ぱっとしたことが特になかった十六年間に別れを告げた。



山田と女の子が出会ったのは、昼休みの最中だった。
食堂は騒がしい上にお金が掛かるからと、お弁当を持参している山田は、中庭のベンチでまったりと空腹を満たしていた。

「山田、何ニヤニヤ気持ち悪い顔してんの?」
「気持ち悪いは余計だ。見ろ、昨日妹達が晩飯作ってくれたんだ」

自慢げに携帯で撮影した画像を見せる山田は、普段の揺るぎない無表情からは想像もつかないほど嬉しそうな笑顔。
いつもこれ位表情豊かならもっと友達が出来ただろうにと、山田の唯一の友達は思ってはいるが、口に出したところで山田本人は気にしないので何も言わないでいる。
山田には妹が五人居て、末っ子はまだ幼稚園に通いはじめたばかりの年頃である。
忙しい両親の代わりに、山田は積極的に妹達の世話を焼いている。
なので、入学した生徒の大半が寮生活である中、寮へ入らずに、山田は毎朝自宅から自転車に乗って学校へ通っている。
家から一番近くて、理事長と父親が実は大親友で、学費なら安くしてあげるよと言われれば、断る理由はなかった。
まさか男子校であるとは知らなかったが、可愛い妹達の為だと思えば苦ではない。
山田の妹達の話を聞いていた友達は、目を輝かせて語る山田にお決まりの言葉を言う。

「相変わらずシスコンだねぇ」
「シスコンの何が悪い」

それに対して、山田も定着化した言葉を返した。
そんな何も変わりない、いつもと変わらないやり取りをしている時だった。

「うぇえっ…ちーちゃん、どこ…」

ぽろぽろと涙を零す女の子が、中庭までとぼとぼと歩いてきた。
うさぎのぬいぐるみを抱えてやってきたその女の子は、山田達に気づくと顔を強張らせた。
どういう経緯でここに居るのかは分からないが、こんな所に一人で迷子になっている女の子を放っておくのは危険だと判断した山田は、なるべく怖がらせないように優しく女の子に喋りかけた。

「こんにちは」
「…っ、ぐすっ…」

ゆっくりと女の子に近づいて、目線を合わせるようにぺたりとしゃがみ込む。
山田は、女の子が大事そうにしているうさぎのぬいぐるみを知っていた。
今、妹達に欲しいと強請られている人気のキャラクターだった。

「ラビちゃんもこんにちは」
「っ!ラビちゃん、しってるの?」
「僕の妹も大好きでね、とても大事にしているんだね」
「うん、ちーちゃんがくれたの…でも、ちーちゃっ…いなくなっちゃったの…」

再び泣き出しそうになった女の子を宥め、山田はよしよしと女の子の頭を撫でた。
落ち着いてきた女の子の様子を見計らって、『ちーちゃん』についての情報を聴き出すことにした。
しばらく辺りを見回すようにきょろきょろと動いていた女の子の視線が、山田のお弁当へ向いていることに気づいた。

「玉子焼き、食べる?」

馴染みがないのか、不思議そうに見ている女の子に玉子焼きを差し出した。
ぱくり、と差し出された山田お手製の玉子焼きを食べた女の子は、くりっとした目をさらに大きく見開いた。

「おいしい!」

笑顔を見せた女の子に、山田と友達はほっと息を吐いた。
山田は女の子に少しずつ質問をして、情報を掻き集めた。
結果、女の子は『さんじょうりさ』という名前であること、『ちーちゃん』は従兄であること、両親が仕事で家に居ない為その『ちーちゃん』の部屋でしばらく生活するらしいことが解った。






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