今日はポカポカ、光合成日和だねえ。
そう言って俺たちは教室の後ろに取り付けられているドアからベランダに出た。


「わあ、あったかい!昨日の寒さが嘘みたい!」
「ね!水谷くん、光合成しよう、光合成!」
「しよー!俺たちは今、オオカナダモだー!」


中学の時の理科で、光合成の実験となるとやたらとオオカナダモが使われていたことを思い出した。「アイツら、馬鹿じゃねえの」っていう阿部の声が聞こえたけど、聞こえない振り。名字さんも同じらしくて、目をつぶって気持ち良さそうに日光を浴びていた。阿部になんと言われようと、俺は名字さんがいればそれでいいのだ。俺の心の中は
名字さん>>>>>超えられない壁>>>>>阿部
なのだから。
名字さんの心の中も
俺>>>>>超えられない壁>>>>>阿部
とかだったらいいのになあ。






「名字さんさー、模試どうだった?」
俺は名字さんと同じように目をつぶって、少し両腕を広げながら聞いた。

「んー、国語は良かったけど、英語が悪かった」
名字さんもそのままのポーズで答えた。

「俺、英語が良くて、国語が悪かった」
「そうかー。逆だねー」
「名字さんはさー、将来何になりたいの?」
「えー、将来ー?」
「俺はねー。音楽に関わる仕事がしたいんだあ。音楽プロデューサーとかいいねぇ」
「へー、音楽が好きだから?」
「うん。超スキ」
「AKBとか作るのー?その時は私も入れてね」
「えぇー、AKBは作らないかなあ。名字さん、アイドル志望だっけ…?」
「ううん。私は看護」
「へー、看護婦さんかあー。……ナースかあー」
「変な妄想しないでよー」
「んー、ごめーん」
「私おばあちゃん子だったんだけどね、病気で亡くなっちゃって…。だから、私みたいに悲しむ人を減らすお手伝いができたらなーって」
「そっかー。俺は音楽が好きでプロデューサー。名字さんは病気が嫌いで看護婦。やっぱり全然違うね」
「うん。全然違う」
「名字さん、手握っていい?」
「いいよ?でもどうして?」
「ほら、俺の手はでっかいけど、名字さんの手はちっさい」
「うん」
「全然違うけど、でも一緒。だって、こうやって手を繋いでるんだもん」
「ふうん。わかった。水谷くんって馬鹿なんだね」
「えぇ、馬鹿って…」
「私も一緒!全然違って、でも一緒!」
「うん。俺も名字さんも、全然違って、でも一緒!」
「一緒がいいね」
「俺と?」
「うーん、さて、どうかなあ?」
「えっ、え!そういう恋の駆け引きしちゃうの?」
「まあね。駆け引きのできるオオカナダモ好き?」
「うーん、うーん……」



阿部が「おいそこの馬鹿二人、もうすぐ授業始まるぞ」と言った。名字さんは、パッと手を離してしまう。えぇ!




「おれ、オオカナダモが、好きだ!」







名字さんは振り返って笑った。

「わたしも、オオカナダモが好き」


またひとつ、一緒が増えたね。




なんだか俺はお腹がいっぱいになった気分になった。幸せって腹に溜まるんだなあ。それとも光合成のせいかなあ。







僕らは今日も揃ってオオカナダモ