「あれっ、名前ちゃん。前髪切ったの?」
「うんっ」
「かわいいね」
「…ありがと」
(あれ!?わたし、何か嫌なこと言ったかな!?)


そう。千代ちゃんの言うとうり、昨日、自分で前髪を少し切ったのだ。千代ちゃんには悪いと思ったけど、露骨に嫌な顔をしてしまった。…と思う。でも、「かわいい」って言われるのは嫌い。だって…みんな、あたしが小さいからかわいいって言ってるんだもん!顔とかじゃなくて、サイズで。幼稚園児とか小さい子を見ると、かわいーってなるでしょ。あれと一緒の原理なわけ。もともと気にしてたのにさ?性格も子供っぽいところあるし?あたし、152cmだからさ?幼いってイメージが取り付いてるのよ。これ意外とコンプレックス。なのに…、この人ときたらさ……?



「ねぇ、阿部。一生のお願いきいて?」
「は?何だよ(いろんな意味で…)」
「縮んで」
「はあ!?おまえ何言ってんだよ」
「だってさ!何で阿部は170もあんの〜!?あたしと阿部が歩いてたら、お兄ちゃんと妹じゃんっ」
「いや、おまえが伸びろ」
「いーやあーー。つか、無理!阿部が縮んでええええ」

くすっ


ん!?『くすっ』だって?こっちは必死だってのに、隣の阿部さん、笑いましたよ?くすって…、くすって、ちょっと子馬鹿にしたかんじで笑いましたよ?


「はは、何おまえ。かわいーわ……とか言ったら、怒るんだよな」
「うん。あたしの中では、というかあたしの場合、かわいい=小さい=嫌味ですか、ソレ。ってことになるの」
「ったく、変な思考回路だわ。三橋並みだよ、おまえ。どこに、彼女にかわいいっつっちゃいけねー彼氏がいんだよ」
「ここに」
「…」
「そんなに言いたいならどうぞ?その代わり…そーだな……、これから阿部のこと“たかちゃん”って呼んでやる」


阿部にかわいいって言われるとさ、「小さい」って言われてるのと同じなのに、すごく、ドキドキする。ほんと。手まで真っ赤になりそうなぐらい。たこ焼きのたこぐらい。だから、だめ。特に阿部はだめ。



「かわいー」

阿部は、にやっと笑った後に、全然感情がこもってないかんじで言った。それでも、あたしに向けて言っているから、カウントする。

「は!?たかちゃんって言ってもいいの!?(正気かコイツ…)」
「いいよ?だって、俺言ーてえよ。おまえにさ。それに、小さいからって言ってるわけじゃないし。『名前』がかわいいと思ったから、俺は言うんだよ」


あ、やばい。何この阿部氏の発言。キザじゃないですか。ホストですか。顔福神漬けぐらい赤くなっちゃったじゃないですか。ドンペリなんて入れてあげませんよ。



「ぶはっ。真っ赤だし。やっぱりおまえ、こーゆーキザな言葉に弱いんだよな。そーなると思ってたけどさ…まさか…、ここまで真っ赤だとは…ははっ、」


「ポイントつくなあ〜この確信犯んんんん」
「…!?な、な、な、泣く!?ふつーここでっ」
「うわあーーん、たかちゃんの馬鹿ー!うれしーんだよーっ」
「わ、わかったから。周りの視線が痛いから。つか、ホントにたかちゃんとか言うな。しかもそんな大声で」


一応、ここ、教室のすみっちょ。その時のあたしは、そんなこと頭から吹っ飛んでたけど。わかったのは、大声で泣いてるあたしの前で、おどおどしてる阿部がいること。



さっきの一生のお願い、取り消す。阿部がずっと一緒にいてくれればいい。背だって、そりゃ伸びたいけど、チーズ食べて、嫌いな牛乳飲んでがんばる。だからさ。あたしの隣りで、阿部が笑っていてくれればいい。阿部の隣りで、あたしが笑っていられればいい。


ねぇ、一生って、何年かな?100年ぐらい?あたしと阿部が死ぬまでかな。でもね、あたしは、ずーーっと阿部といたいの。だから。だからさ。あたしは願うんだよ。

ずっと、阿部と一緒にいられますように…









世界が崩壊するその時まで


(二人が死んだ時は、手を繋がせて、ソラを見上げて泣いてください、そこに、あたしたちはいます、たとえ、地球がなくなったとしても)