机でうなだれている私に、友達は声を掛けた。

「どうしたの?あんたがお昼に元気無いなんて」


私はその友達の顔を見ることもなく、言った。

「泉を怒らせて、別れようって言われた…」
「え!それであんた、いいって言っちゃったの!?」
「返事する間もなく電話切られた…」



最近、彼氏の泉との仲が上手くいっていなかったのは事実だ。泉は部活が忙しいから、デートも中々できなかった。メールもそんなに好きな人じゃなかったから、週に数回するだけ。クラスも違うし、ふたりともおしゃべりなわけでもない。そんなわけで、誰が悪いとかじゃないけど、私の心は孤独感でいっぱいになった。一緒にいても、私が空っぽの心を引きずって歩いているのを、泉は全然見てくれないし、気付いてくれない。私たち、たまに一緒にいても、心はバラバラなんだね。皮肉にもそう思った。







一人で帰る放課後。帰り道は、泉と別れる前と何一つ変わってはいない。泉とは、泉の部活がミーティングの日だけしか一緒に帰らない。よく甘々な恋愛小説なんかで彼氏の部活が終わるのを健気に待つ彼女がいるが、あんなのは所詮フィクションが生んだ産物でしかない。九時まで何して待ってろっていうの?たかが一緒に帰るだけのために!私も面倒臭いし、泉だってうざいだろう。現実は小説ほど甘くはないのだ。

ああ、愛されていたい。泉に。ああ、愛されていたい。他の誰かじゃなくて泉に。苦しいほど泉のこと考えてる。寂しさを誤魔化してても、心が無くなったとしても、どうしても泉じゃなきゃ駄目なの。でも、真っ直ぐに思っても届かないことが多くて、だから私、泉に酷いこと言った。言っちゃいけないこと言った。『泉が野球部じゃなきゃ良かったのに』って昨日電話で言っちゃった。それは、泉自身を否定する言葉なのにね。ごめん。ごめんね。ごめんね。泉。ごめんね。ごめんなさい。愛されていたい。もっともっと泉に。“誰か”じゃなくて泉に愛されていたい。好き。好き。泉。好き。大好き。真っ直ぐに思うだけじゃ、届かないこともあるね。その意味を、私はまだ理解しきれてなかった。遠くに浮かんだ千切れ雲が、泉と離れて泣いてる私みたいで、尚更泣けてきた。小説だったら、ここで泉が後ろから走ってきて、私の腕をとって、俺たちもう一回やり直そうって言うんだろうなあ。やっぱり、現実は甘くないや。









ヒューマニズムシアター


(夜中に泉から『やっぱり好きだ』とメールがきた)