受験シーズン真っただ中。私は、廉を屋上に呼び出した。もちろん、愛の告白をしようというのではない。ただ…そう、ただ、悪口を言いに来たのだ。言うなれば、愛の申告というやつだ。


「名前ちゃん…話したいことって、な に?」

たじたじ言う廉を見て、私は腕組みをしながら言った。

「うん。廉は西浦でしょ?受けるの。これから受験勉強も大詰めで、二人で話す機会も無くなると思うし、今のうちに言っとこうと思って。言っとくけど、これは愛の告白なんかじゃないよ。言うなれば、愛の申告」

「…う、ん?」

…わかってないな、こいつ。まあ、いいや。


「まだ廉が西浦に受かるかどうかわかんないけど、ひとつ言っときたいことがある」
「…うん」

これはわかってくれたみたいだ。

「廉、あんたはへたくそだよ!」
「…っ!」
「大へたくそ!私、これまでにこんなへたくそな人見たことない!」

廉は、するすると床に座り込んで、目に涙を溜めながら小さく吐き出した。

「お、俺が…ダメピなの…わかっ、て…る…」

そうくると思った。


「違う!廉はダメピなんかじゃない!」
「…へ?」
「廉は、生きてくのがへたくそだよ。マウンドなんかにしがみついてさ、そのせいで畠たちに疎まれて。さっさと叶と交代しちゃえばよかったのに、っていつも思ってた。廉は、人に合わせて、流れるように生きてくのがへたくそ。器用に生きてくのがへたくそ」
「名前ちゃ、ん?」

あれ?おかしいぞ?なんでか知らんが涙が出てきた。かっこわる。


「西浦に行ったら、上手に生きてねって言っても多分無理だと思うから言わない。そのかわり、西浦でもうまくいかなかったら、いつでもこっち帰ってきてくれていいからね」
「うん」


あーあ、泣いちゃって恥ずかしいなあ。もっとかっこよく助言…じゃないや、愛の申告するつもりだったんだけどなあ。



「あり、がとう!」

廉がすくっと立ち上がって笑った。私は、そんな廉を直視できない。

「べっ、別に、当然のことを言ったまでよ」

強がりの腕組みはやめれないままだ。




「俺、も!名前ちゃん、に言いたいこと、ある!」
「へ?」

唐突なことに、私は気が緩んで、組んでいた腕をとってしまった。

「俺、へたくそだ。へたくそなんだ…。ピッチャーも、譲れないし…。名前ちゃんを好きなのも、やめれないんだ…!」


「…愛の告白?」
「う、ん!」


なんじゃそりゃ。今私たちは受験生で。一番忙しくて大変な時期で。廉だって、埼玉行っちゃうのに。ちゃんとさよならしようって決めたのに。絶対言わないって決めたのに。



「…私も!好き!」



廉はへたくそだ。
私はもっとへたくそだ。









へたくそ


(遠距離恋愛とか自信ないし、廉、西浦落ちてくれないかなあ…あ、不謹慎か)