コーヒーの香り。静かに流れる音楽。座り心地のいいイス。ちょっと贅沢に四人用の席。(だって空いてたんだもん…!)てなかんじに、わたしはスターバックス(通称スタバ)に来ている。この、ちょっと大人な、落ち着いている雰囲気が堪らなく好きだ。いつもなら放課後、一人で来るのだが、今日は違っていた。正面に叶がいる。叶は、所謂わたしの彼氏とかいうもので、同じく、わたしも彼の、属にいう彼女というやつだ。二人はそういう関係にあるのだ。

叶は普段、…わたしがここでカフェモカを啜っている時のことだが、その時、叶はいつも野球をしている。MIHOSHIと書かれたユニフォームを着て、ボールを投げているのだ。きっとかっこよく。誰よりも熱心に。それなのに、なぜ今日ここに叶がいるかというと、それはただ単純に、部活がない。それだけのことだ。詳しいことは知らないが、学校に他校の教師が来て色々と語り明かす(会議とも言う)らしい。ご苦労なこった。わたしはできる限り…、いや、間違っても教師なんて職には就きたくないと思った。



「ここ静かだなー…」

カフェラテを一口飲み終えた叶が言った。その顔は、どことなく渋い顔をしていた。苦かったのだろうか。可愛いところもあるじゃないか。

「ふっ、叶泡付いてるー」
「ばか、今から拭くんだよ」

叶は慌ててナフキンで口元を拭い始めた。明るすぎない照明がゆっくりと漂う中、叶がいつもよりも幼く見えた。それから、野球の話をしたのだが、叶はそれはもう、小学生並みのテンションだった。畠とのバッテリーは上手くいってるだとか、織田をもっと使えれば攻めも守備ももっとよくなるとか、三橋も頑張ってるから負けてられないとか。わたしの野球知識は、ごく平均的な(アベレージ)一般人並みぐらいなもんで。話の内容の半分ぐらいしか理解はできなかった。とにかく叶は喋り続けたわけで。きっと、喉が渇いたのだろう。さっきまで苦い顔をしてちびちびと飲んでいたカフェラテを勢いを付けて口に運ぶようになった。話が終わる頃には、カップには、底に泡が溜まっているだけになっていた。




ウォークマンで一曲聞き終えると、やけに静かだと思って、顔を上げた。

「ふはっ…」

思わず笑ってしまったよ。一人で笑うなんて不審だなあ、わたし。ねえ叶?叶もそう思う?生意気に笑うなよーこのやろっ。おねむの叶くんめ。手を組み、頭を横にして眠っている叶修悟にテレパシーで語りかけてみる。当然、わたしはただの平均的な日常を通過している、ごく普通の一般人であって、超能力者でもなんでもないから届いているわけがないのだけど。綺麗なまつげ。柔らかそうな肌。所々カールした黒髪(天パ言ったら叱られた)。ついつい見とれてしまって、掌に置いた顎に痛みを感じた。しゃくれては困るので、すぐさま体勢を変えた。そして。無言で、わたしの正面で堂々と寝ている彼氏に語りかける。



おい。そこの修悟くん。





大好きだよ。









超能力者になりたかった



(暗くなり始めた夜空の星が、わたしを笑っていた)