俺が考えた終焉のシナリオ。


俺「俺、好きな奴ができたんだ」
名字「好きな奴って誰?」
俺「二組の赤川。だから、別れてほしいんだけど」
名字「嫌だよ!」
俺「ごめん。でも俺、もうおまえのこと好きじゃないんだ」
名字「…わかった」



…大まかに言うとこんなかんじ。近々彼女と演じるつもりだ(彼女はこのことを知らないけど)。キャストは俺と名字と赤川。赤川とはこの間一緒に出掛けた。悪い奴ではないが、俺に彼女がいることを知っているのにもかかわらず誘いを受けたわけなので、ただの馬鹿か、わかっていてなお受け入れたのなら所謂悪い女というやつだと思う。まあ、別段赤川が良かったわけではない。偶然選んだのが赤川だった。名字と別れた後も、付き合いたいとは思わない。でも、成り行きで付き合うかもしれないし、そうでないかもしれない。そんなのは重要な事じゃない。





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今日はミーティングの日だったから、夕暮れ時の帰り道を名字と歩いた。浮かない顔をしている名字を余所に、俺はシナリオのことなんてもっと先のことだと思っていて、頭の片隅に片付けていた。少しの沈黙の後、名字が控え目に切り出した。
「…泉くん。この間の休みに赤川さんと一緒に出掛けてたって本当?」

予想外の急展開だった。
「…見たの?」
「私の友達が…」

そうかそうか。そんな、自分の彼氏が他の女と遊んでたなんて友達から聞かされたとは、さぞかし辛かったことだろう。俺はまた彼女を傷付けた。

「どうして?私のこと、嫌いになっちゃった…?」
名字はこちらを見ずにいる。きっと、涙をこらえているのだ。俺はこういう時、彼女を救ってやる術を知らない。彼女が悲しんでる時。彼女が辛い時。彼女が落ち込んでる時。彼女が悩んでる時。その半分くらいは俺が原因だというのに。名字は良い奴だ。嫌味ではなくて。良い奴で素直な奴だ。だから、俺のちょっとした冗談もいつも真に受ける。

“馬鹿じゃねえの。うっせ。ほっとけよ。はあ?気にすんな。べつに。なにそれ。やめろって。意味わかんねえ。本気で言ってんの?やだよ。うぜえ。”

軽い気持ちで言っただけなのに、あいつは俺に気付かれないように毎度毎度傷付いてた。それが辛かった。いちいちうざいとか、そういうんじゃない。悲しかったし、辛かったし、落ち込んだし、悩んだ。


「嫌いになんて…なってないよ」
「じゃあ、どうしてっ…」

名字は涙を溜めながらこちらを振り返った。どうして…?おまえがそういう顔をするからだ。俺がそういう顔にするからだ。俺だから、名字はいつも傷付いてるんだろ?


「…ごめん。」
「…赤川さんのこと、好きなの?」
「……」

好きって言え!俺!

「…言えないほど好きなの?」

違う。好きなんかじゃない。別れるための口実だ。嘘だ。でも、名字は真実だと思ってる。また傷付いてる。また傷付けてる。

「…私に言えないくらい、赤川さんのことが好きなの?」

違う。そうじゃない。俺が本当に好きなのは名字だ。

「…言えないくらい、赤川さんを傷付けたくないの?」

違う。そうじゃない。俺が本当に傷付けたくないのは名字だ。でも、俺は嘘を言う。彼女を傷付ける。これ以上名字を傷付けない為に。今日で傷付けるのを最後にする為に。


「…うん。俺は名字のことが嫌いで、赤川のことが好きで、傷付けたくないよ」




「…わかった。もう何も言わない」

名字は一人で小走りに去っていった。





これでよかったのか。わからない。でも終わった。俺の役目は終わった。俺と名字は終わった。名字を傷付けるのは、もう俺じゃない。

名字はきっと、明日からも強く進んでいくんだろうなあ。なのに、俺はこの場さえ動けない。傷付いていた事に傷付いていた俺。傷付けていた事に傷付いていた俺。本当に弱かったのは誰だったのか、今更ながらにわかった。







道化師のシナリオ



(俺じゃ幸せにできないんだと思ったら涙が出た)