昨日はいつもより遅くに家に帰って来て、親の顔がなかなか見れなくて、ごはん食べて、親に遅くなる時は連絡しなさいってちょっと説教くらって、何となくお風呂に入りたくなくて、中にある鏡に映った自分を見たらすごく恥ずかしくなって、浴槽に浸かってたらあの時のことを思い出してのぼせちゃって、ベットに入ったらシーツの感触で顔が熱くなって、目をつぶるとすぐあの時のことを思い出しちゃってわたしのエッチ!とか思ったりして、明日会ったらなんて言おう…。いやいや、喧嘩したわけじゃないんだからいつもどうりだよね。まず、泉がおはようって言って、わたしがおはよう、って返すでしょ…。違う。逆だ。わたしが言ってから泉だよ。うん。あーでも今日のことで気まずくなるなんてことあるのかなー。でも別れ際ちょっとぎこちなかったからなあ…。いや、でも、…泉だって健全な男子高校生なわけだしあんなことしたってべつになんとも思ってないかもしれない…、とか悩みに悩んで結局一睡もできずにケータイのアラームを止めて、この教室のほぼ中心でイスに座りながら未来に恐怖している今に至るのだ。遠回しに何が言いたいかというと、その、つまり…。昨日、わたしは泉と初エッチしちゃいました!的な…。


教室ってこんなに静かなところだったけ?足が柄にもなく貧乏揺りしている。それを無視して泉がいつ来てもいいように心の準備を整えてから五分ほど経った時だった。

ガラッ
教室のドアが開いたので、さっきまでのように振返った。

!っいずみだ!


「…、おはようっ泉、……」
普通に笑って挨拶をする。口元が痙攣しそうだ…。

「おす。」

いつもどうりな泉。安堵感が心を満たしていった。…まあ、泉の目線が少しそれてるのは気のせいだよね!うん!そうに違いない!!





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お昼、いつもの四人(浜ちゃん、三橋くん、田島、泉)と机をくっつけてお弁当を食べた。べつに、わたしに女友達がいないとかそんなんじゃないから。断じて。(部活で忙しいんだから、お弁当の時くらい一緒に過ごしな、だって)


「なーお腹すいたー」
「はあ?早弁した田島がいけないんでしょ」
「ちぇー」
「自業自得」
「三橋さ、その弁当ちょっとくれね?ほんのちょーっとだけ」
「えっ…あ、お れは…そ、のっ」
「こら。三橋くんをいじめるな」
「そうだぞ」
「じゃあ浜田がなんか買ってくれよー」
「はあ?俺!?なんでそんなことっ…」
「こら田島。浜ちゃんはねー、応援団として学ランを着たことからコスプレの魅力に目覚め、」
「は!?」
「お金を貯めては夜な夜なドンキへ行って……いっちゃーく…にちゃーく…」
「浜田!そうだったのか!」
「名前…。俺今めっちゃ悲しいんだけど…。…泣いてもい?」
「どーぞ。」
「うー………。……ていうかさ、気になってたんだけど、名前のその首のさ、わっ」

浜ちゃんが喋ってる途中にガッという音がした。なんだろうと思ったら、泉が浜ちゃんの座っていたイスを蹴ったようだった。

「あっぶね。泉おまえなあ…」

浜ちゃんは半べそをかいていた。わたしにはそれが冗談の演技なのか本物なのかわからなかった。
「え、てか…なんで泉がそんな…。…!まさかおまえっ…!」

浜ちゃんは顔をいくらか赤くして、引き気味に言った。泉はとても不機嫌そうだった。

「ちょっと名前来て」

そう言って泉は席を立った。わたしもそれに続く。残された三人は好奇の目で私たちを見ていた。




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人があまり通らない特別教室の前で、泉の歩みが止まる。話があるだろうからこうして呼び出されたのに、沈黙が続いた。「なに?」なんてさらっと聞ければいいんだけど、いつ言ったらいいのかタイミングがわからず、頭の中だけに何度もリピートされていた。



「浜田には…」
「へ?」
予想外の単語にわたしの口は開いた。浜ちゃん?

「だから、浜田とかには言うなよ。その…、昨日のこと。うるさいから」

泉に言われなくても、そんなこと言えるわけないじゃん。なんて思ったが、うん、とだけ言っておいた。

また沈黙に襲われる。ああ、わたしは沈黙とやらが嫌いだ。そんなときは、いつだって悪いときに違いないのだから。気まずくて、何も言われなくて、何も言えなくて。そんなのが、大嫌いだった。








「……何も言うなよ。」

泉はそう言う。わたしはわたしの手を見る。同時にそれは、泉の手を見ていることにもなる。握られた手を見つめる。ああ、泉の掌に包まれているわたしの手は、なんて幸せなんだろう。とても憎い。ああ、何も言わせずにいる泉は、なんてずるいんだろう。とても憎い。言うなと言われたので言ってやった。



「泉のばか。」









沈黙よこんにちは


(首にキスマークがついていたらしい。なんてベタな…)