親指と人差し指でつまんだそれを、太陽に透かしてみる。



「見て泉ー。綺麗でしょー?」
「何それ。ただのビー玉じゃん」

泉は少し目を細めて、いかにも興味なさそうな声を出した。

「“ただの”ビー玉とはなんですか!わたしの可愛い可愛い従弟のまあくんがくれた素敵な硝子細工を!」
「…まあ、くん…?」
「そう!『これ。おねえちゃんみたいだからあげるね』って!ああ!可愛過ぎる!あれはもう罪だよね!」
「知らねえよ」


あら冷たい。そうしてわたしはまた手の中のビー玉に視線を戻す。淡いエメラルドグリーンの中に、どす黒い紺色をした丸がずっしりと構えていて、それを白い霧が散り散りに覆っている。


「これは……、あたしじゃないか。……」
「は?」


型にははまってる。けど、決してその結果には満足はしていなくて、いまいち透明にはなれない。黒い塊はあたしの欲望。つまりはわたしの本能であって、生態であって、願望であって、目標であって、魅力であって、本音であって、一番あたしに近いものだ。きっと。そして薄い霧はあたしの理性。それは、見栄でもあり、常識でもあり、適当でもあり、投げやりでもあり、計算でもあり、正義でもあるのだ。きっと。『おねえちゃんみたいだから』まあくんは天才かもしれない。あたしの本性をずばりと当てている。恐るべし五歳児だ。しかも無自覚ときた。これは将来大物になる確率、九十八.三%ぐらいある。うん。かなりの確率である。結局、あたしは中身をさらけ出せてない卑怯者だってこと。優等生でもなければ出来損ないでもない。本音を言えず、世の中に翻弄されている美少女☆…ごめん、自重するよ。


だからつまりそれはというかあたしはとんでもなくそれはもうよそういじょうにみかけにそぐわずはてしなく



問題児なわけだ。





「泉も、厄介な子に惚れちゃったねえ〜。可哀相に」

「おまえが言うな。ってかおまえもな」

泉はそう言うといじらしく笑った。
だからあたしも嫌味に笑ってやった。








ビー玉を飲み込む


(アヒルは所詮白鳥にはなれないけれど、隣に大好きなアヒルがいるならば、いいじゃないか、たとえ、それがどれだけ醜いとしても、)