「いっ、ずっ、みー♪」

悪魔のような声が俺の耳に届いた。ああどうしよう、冷汗かいてきた。俺はこの、本来次の授業の準備をするための重要、かつどーでもいい休憩時間十分を、平和に生き延びられる気がしない。全く。きっと、精神的な意味であばらを折ったりするだろう。脳細胞が百万個くらい死んでしまうだろう。すぐにここから姿をくらましたい。だが俺はドラえもんの不思議道具のひとつの、あの被ると人から見えなくなる帽子みたいな便利なものは手持ちにないので、それは到底無理なことだ。ああ、消えてしまいたい。



「泉君に問題でーす。さて、今日は何の日でしょう?答えはホワイトデーなのです」
「うわあ。きいといていきなり即答かよ」
「泉君、ホワイトデーのクッキーはどうしたんですか?わたしまだ貰ってませんよ?ん?」
「はあ?なんでてめーにあげなきゃいけねーんだよ。つか、おめーにチョコなんてもらってねーし、」
「なによ。泉にこれ以上ニキビができないようにと思ってチョコ渡すのやめてあげたんだから。感謝してよね」
「………。」
「あれ?感激した?」


ああ、今すぐ消えてしまいたい。いや、あいつが消えればいい。うん。そうだ。そのほうが俺のため、日本のため、世界のため、人類のため、地球温暖化のため、大気汚染のため、水質汚染のため、数多くの惑星のため、銀河系のため、宇宙のためになる。そうに違いない。けどそれじゃあ、きっと俺は泣くし、日本も泣くし、世界も泣くし、人類も泣くし、地球温暖化も泣くし、大気汚染も泣くし、水質汚染も泣くし、数多くの惑星も泣くし、銀河系も泣くし、宇宙も泣くだろう。間違いない。結局これも無理な話なわけだ。為す術無し。俺はおとなしくこの阿呆の餌食になるしかないのか。まじそれだけは勘弁してほしい。



「ねえ泉。ホワイトデーは何のためにあるんだろう。それ以上に、バレンタインデーに意味なんてあるのかな?わたしは絶対ないと思うんだよね」
「なあおまえ。そもそも俺の意見聞く気あんのか?ねーだろ、絶ってぇねーだろ」
「だってさ。そんなに二月十四日にこだわる必要ってないよね?誰がなんであの日に決めたのかとか、全然知らないわけだし。なんでみんなあの日に告白したりするんだろう。いつだってよくない?とわたしは思うんだけど。泉君はどう思われますか?」
「んーあーんー。もういいんじゃないっすかね。なんでも。おらぁーあなた様が言ってることがちっとも理解できないです、はい。会見以上。」
「うん。絶対そうだよ。十四日に告白しようが十五日に告白しようが、好きな気持ちの重さなんて変わらないんだし。ねぇ?」
「あーそーですね。」
「だからわたしは今日も泉が好

キーンコーンカーンコーン…


…あ。時間だ。次は現国だっけ?じゃあね!」












おい。おい。おい。おい。おい。おい。おい。おい。おい。おい。おい。おい。おい!

なんなんだ。なんなんだよ。なんで最後の言葉言う前にチャイム鳴るんだよ。意味わかんねえ。って、一番わかんねえのはあいつと俺だけど。しかもなんでそれで言うの途中で止めてふつーに自分の席着いて現国の教科書出してんだよ。告白めいたことほのめかしてたのに。何?これ。なんなんですか?放置プレイですか?はたまたある意味鬼畜ですか?


ああ、今回ばかりは恨むぜ。いつもあいつから解放さしてくれていた、教頭のチャイムを管理しているノートパソコンのマイクロチップを。ちょっと今回は早過ぎたみたいだ。あと十秒、いや一秒遅ければ…。って、俺は何を言ってるんだ。何を期待してるんだ。あの後何を言おうとしていたかなんてあいつにしかわからないじゃないか。好、きじゃないですよばーか。とか。…ねえな。いやいや!ある!あるぞ〜?あいつならあり得る!そう思わせといてくれ。今のまんまじゃ現国とか頭入んねーからさ。次はチャイムが鳴る前に吐かせてやる。待っとけ!おまえの望みどうり餌食になってやるよ。後悔しても知んないからな!








餌食になる



(いっとくけど、べつにチョコの食べ過ぎでニキビできたわけじゃないから!断じて。そこんとこ覚えとけよっ)