今、わたしが一番したいこと。『ムンクの叫び』をびりびりに破いてしまうこと。今、わたしが一番願うこと。それは…。




世界中のカップルは消滅しろ





今日はイヴだ。あ゛ー忌々しい。何でぴちぴちの女子高生がイヴを一人で過ごさなきゃいけないんだ。しかも、気分転換に街に繰り出してみたら(そもそもそれが間違い)、周りはカップル。カップル。カップル!苛立ちが収まらない。くっそー!独り身はわたしだけかよっ。



「……、名字!?」

あん?今わたし機嫌悪いんだけど…。って……

「孝介!?」

そこには、見慣れたニキビ球児。


「わーお。一人?」
「…おう」

明らかに目線を斜め横に逸らす孝介。あまり自慢できないことだと理解しているらしい。なんだなんだ、孝介も彼女いないんだあ〜。こいつも寂しいイヴを過ごしてるわけね。

「あんさ、今からお茶しないっ?」
「あー?…まっ、べつに暇だしな」
「誘ったのわたしだから孝介が奢ってね」
「はあ!?べ、べつに奢るのはいいけど、その考え方は改めろ!」





   ;・○o・;○;・o○・;
   ○o・..・*・..・o○





おしゃれな喫茶店に入った。美味しそうで可愛いケーキがショーウインドーに飾られている。周りには忌々しいカップルが溢れかえっていた。

「ねー孝介ー。わたしたち、カップルみたいだね〜」
「あほか。」



好きになって、告白して、両思いで、付き合って、キスして、エッチして、結婚して、子供が生まれて、お母さんになって、孫が生まれて、おばあちゃんになって、死んでいく。恋から始まるのは大体こんなこと。これを順序どうりに一つ残らず全てを制覇するなんて、わたしの人生、残り七十年ぐらいかけたって到底不可能な気がする。わたしは自己中心的な性格の持ち主だ。自分ではそんなに思わないんだけど、よく言われる。だからだろうか。人に決められた(特に、いかにもうざったい教師の出すめちゃくちゃな)ルールどうりに動いたり、指図されるのはあまり好きじゃない。というか嫌いだ。いつでも自分の意見を持って、簡単に曲げたくない。今だって。ほら…。『順序なんて、とばしたっていいじゃない』そんな風に思ってしまっている自分がいる。





「孝介のとこにはさあ、サンタさん来る?」
「来ねーよ。てか親じゃん。サンタって」
「もおー、孝介には夢がないなあ!」
「なんだよ、名字んところは赤服じーさんが来んのかよ」
「うん。来るよ。朝起きるとね、枕元に一万円札が置いてあるの」
「そっちのがよっぽど夢ねーよ!!」





「ねえ…。孝介にクリスマスプレゼントあげる。」
「なんだよその急激な心変わりは。人に奢らせといて」
「たいしたものじゃないんだけどさ、…」
「おーおーおー。この際何でも貰ってやるよ」






ちゅっ




孝介の頬から、わたしの唇から、零れ出したリップ音は、二人だけを包む空間にしばらく響いていた。その小さなメロディーは、わたしの頭からなかなか離れてくれなかった。








魔女からのクリスマスプレゼント



(彼女から届いたものは、パイでも、黒猫でもなくて、ピアノにも似つかわしい、愛の歌だった)