「放課後、話があるんだけど」


と、阿部から言われた。






「わり。遅れた」
「別にいいよ。…たぶん」
「たぶん!?…おまえ怒ってるだろ」
「怒ってない。こんな人気のない廊下に一人で十五分も待たされたけど怒ってない。うざいなんて微塵も思ってない」
「悪かったよ!!」


ボール

ワンボール
現在 ノー、ワン




「ただひとつ言うとするならば、『いい女は待つのが嫌い』ってことかな」
「“いい女”?じゃあ、おまえは大丈夫だな」
「…阿部はいっぺん死んだ方がいいんじゃない?」


ボール

ツーボール
現在 ノー、ツー




「って、こんな事言い合うために呼んだんじゃねえよ!」
「そりゃ、そうだろうね」
「あのさ…」
「うん」
「絶対笑うなよ。引くなよ。明日からシカトとかもナシな!」
「…おまえは小学生か!可愛いな隆也くん!」
「うっせ!俺は真面目に言ってんだ!」


ストライク

ワンストライク
現在 ワン、ツー




「……その…、おまえってさ、いつも嫌味ばっか言ってくるような奴だけど、俺がヘコんでると必ずって言っていいほど、わざわざ絡んで元気づけてくれたりさ…。そういうの、ほんとに嬉しかったっつーか…。ありがと、な。すげえ助かった」
「う、うん。なんか照れるね、はは」


ストライク

ツーストライク
現在 ツー、ツー




「おまえさ、こないだ絆創膏くれただろ?」
「え?うん。だって阿部、虫に刺されたところ掻いちゃってめっちゃ血が出てたんだもん」
「そん時の絆創膏がキティちゃんでさ、ちょっと恥ずかったわけだけど」
「悪かったね。あの時はそれしかなかったの!」
「あんな柄の絆創膏持ってるなんて、おまえにも一応女らしいところあったんだなって思ったら、そん時から妙におまえのこと気にしちゃってさ…」
「え!?絆創膏持ってるとこじゃなくてキティちゃんが好きなとこ!?そりゃ、私だって女なんだから好きさ!そんなところに女らしさを感じられても…!阿部のグッとくるポイントがわからない!むしろ私、女性のたしなみとして絆創膏を持ってたとこを褒められたいよ!」


ボール

スリーボール
現在 ツー、スリー
フルカウント





「俺……その…あの…あぁー!もう!わかんだろ!こんだけ言えば!」
「はあ!?ソコ投げ出すの!?」
「空気読め。空気。俺が言わんとしてることを察しろ」
「阿部、あんたってやつは…。乙女心がちっともわからないんだね。いい?あんたは今崖っぷちに立たされてるんだよ?阿部の今のカウントはツー、スリー。つまりフルカウント。次下手な事したらフォアボールでアウトだよ!わかってんの!?」
「はあ?ツー、スリー?」
「だーかーら、あんたは今フラれるかそうでないかの瀬戸際にいるってこと!次ボール球ほっぽったら、ただじゃおかないからね」
「お、おう…?」
「わかれば良し」
「聞いてくれ」
「うん」
「笑うなよ」
「うん」
「引くなよ」
「うん」
「シカトすんなよ」
「うん」






「おまえが好きだ!俺と付き合ってくれ!」









ダメピとキャッチャーミット


(ストライク。バッター三振。誠に残念ながら私はたった今から阿部の彼女です)
(見逃し三振ってことは、おまえも俺のこと…)