普通に朝練を終え、普通に昇降口へと向かった。すると、4組の下駄箱の前で棒のように立っている人影が見えた。見覚えのありすぎる顔だったので、声をかけてみる。

「よー、名字。そんなとこで突っ立ってどうしたんだよ」
「い、泉くん…。それが…」

名字は同じクラスの女子だ。普通に仲が良い。なんと阿部の彼女という相当な物好きという所以外は、至って普通の可愛い女子である。そんな名字の下駄箱は開いたままだった。

「こんな紙が入ってたんだけど…」

手のひらくらいの大きさの紙に、それはそれは大きな文字で書いてあった。

『阿部くんと別れろ!』



「…なあ、名字…」
「…うん、わかるよ、泉くん…」

俺も名字も、同じことを思ったようだった。



「「阿部のこと好きな奴なんて他にいたんだ…」」





   ;・○o・;○;・o○・;
   ○o・..・*・..・o○





放課後、珍しく名字が7組に来た。なぜか泉と一緒に。どういうわけだ。


「阿部!ちょっと来て!」

そう言って俺の腕を引っ張っていく名字。いつにない強引さに、思わず心臓がばっくんばっくんする俺。そして、なぜか廊下の隅で名字と泉に包囲される。

「え、えと…何か?」

「ズバリ聞きますと、最近告白なんかされちゃったりしました?」

ギクッ

「それで彼女の名前とか聞かれて、安易に答えちゃったりしました?」

ギクッ

「どうなんだよ容疑者阿部!」
「はい、全部俺がやりました…(てか、なんで泉はこんなノリノリなんだ)」





   ;・○o・;○;・o○・;
   ○o・..・*・..・o○





「断ったらなんでって言われたから、彼女がいるって言ったんだよ」
「で?」
「名前聞かれて、答えたくないって言ったけど、聞いたら諦めるっつったからしょうがなく言ったわけ」
「うん。で?」

貴重なお昼休みを彼氏の尋問に費やしている私。ああ、もったいない!泉くんは空腹に耐え切れず先に教室に戻っていったというのに。


「そんなにその彼女が好きなのって聞かれたからそうだって答えた」
「うん」
「どれくらい好きなのって聞かれたから、」
「うん」
「死にたくなるほど好きって言った」

な、なにそれ!そんなことをなんで今恥ずかしげもなく言えるの!?逆にこっちが恥ずかしいよ!というか、大層な事言われてるんだから、私が恥ずかしがるのは当たり前か!だいたい、私にも過去に言ったことないクサイ台詞を見ず知らずの女子に先に言っちゃうってどういうことよ!いくら聞かれた質問とはいえ、そんなハッキリと言わなくても…。(絶対私がその子ならショック受ける)でも、阿部のそういうたまに何故かすごく素直過ぎるところ、すきだよ!


「あ、阿部!」
「ん?」
「それ本当?」
「ああ、本当」
「本音?」
「ああ、本音」
「あ、阿部!」
「ん?」
「私も、阿部のこと、死にたくなるほど好きだよっ」

そう言って、阿部にしがみつく。

「ちょ、ここ廊下…!」


ああ、また泉くんに物好きって言われちゃうな。












次の日、私は物好きな子の下駄箱にメモを入れた。彼女が驚く様が想像できる。泉くんには、物好きな上に悪趣味だなあって言われた。けど、そんなこと知らない。

『阿部とは別れない!』