「弱い…から…、……さ」



わたしたちは河原にいた。真っ赤な夕日に包まれながら。まるで、ドラえもんに出てくる、ワンシーンみたいに綺麗だ。それで、三橋くんの相談を聞いていた。というか、弱音みたいなものを散々聞かされていた。

わたしたちは、自分で言うのもなんだけど、結構仲がいいと思う。相談しあったり。だけど、時々何か隠してるような素振りをするの、三橋くんが。そりゃ、彼女でもないし。わたしに隠してることがあっても、つべこべ言える立場じゃないってことは、重々承知してるんだけどさ。わたしだって、全てを話してるわけじゃないし。でも。どこか…、どっかどっか、息苦しいんだよね。


三橋くんの話聞いてるとね、野球のことばっかなの。野球、ほんとに好きなんだなぁ、って思って。ほんとに、頭の中野球ばっかだなー、って思って。わたしの存在って、三橋くんにとって、どれぐらいの大きさなんだろう…とか思ってりして。すぐそういう方向に考えるんだから!って自分を叱って、そこで溜め息。この無限ループ。いい加減飽きた。



「弱い…から…、……さ」

俯きながら言葉を途切れ途切れに零す三橋くん。

「弱くなんかないよ!野球やってる時の三橋くんかっこいいし。野球部上手くいってるんでしょ?」


「野球のことだけじゃ、ないん…だ…よね…」
まるで独り言のようにぽつりと呟いた。

「何のこと?」
「………」
「…言えないこと?」
「名前…ちゃ、ん…には…い、言えな…」


ほらね。こうゆうこと。何か、少しでも、部分的にだとしても、拒絶されてるみたいに思えてくる。悲しいけど、それと同時に怒れてくる。仲がいいと思ってたのはわたしだけ?わたしの思い上がり?って。むしゃくしゃして、いつも以上に大胆な行動をとった。…というか、とってしまった。ある意味、不可抗力というやつだ。


「三橋くんにとって、わたしはその程度だったんだ!今まで、たくさん話聞いてきたつもりだったけど、わたしに言いたくないことがあるんでしょ!なら、はっきり、「おまえには言いたくないんだよ」って、思ってること言えばいいじゃん!何もしないで、隠して、おどおどしてる三橋くんなんて、ムカつくよっ」


三橋君は黙ったままガタガタ震えていて、わたしは膝を抱えて泣いていた。二人共喋る気配はなくて、呼吸の音さえも聞こえてこなかった。時々、川が波打つ音だけが二人の間に響いていた。




あんなことが言いたかったわけじゃない。断じて違う。ただ、拒絶されたのに動揺しただけ。なのに、謝れないのはなぜだろう。ごめん、冗談だよ。言い過ぎちゃった。そう言って、笑ってあげられないのはなぜだろう。そうすれば、こんな赤い河原、すぐに抜け出せるのに。はやく、こんなところから帰りたかった。



『ごめん、さっきの冗談!言いたくないならいいよ。べつに。言えないことの一つや二つ、誰にだってあるよね。うん。本気にしないでよねー。三橋くん震えてるからびびったじゃん!ごめん、ごめん。』


頭の中で反芻する。なぜ声に出せないのか。



「ごめん」

その声は、わたしのものではなくて。三橋くんの、か細くて、小さな声だった。

「ううん。こっちこそごめんね」

「…………」
(何で言えないんだろう、俺…)


そのまま、またわたしたちは、沈黙というブラックホールに飲み込まれていった。易とも簡単に。


茜空なんて嫌いだ、馬鹿やろう。
青春のシンボルを睨んだ。






茜空を背に、僕たちは闇へと流されてゆく



(はあ、俺に、君が好きだと言える日は、くるのだろうか)