(うちの野球部強かったんだね!)
(え?でも今年からでしょ?全員一年っていいよねー)


(あーやっぱり阿部くんってかっこいいよね!)
(そう?あたしは水谷のほうがいいと思うけど)
(え!?まきちゃんって水谷のこと好きだったの!?)
(まきってああいうのが趣味なんだー)


(いーなあ、篠岡さん。わたしも野球部のマネージャーやりたい!)
(あんたは陸上部の期待の新人なんだから、先輩に止められるに決まってるよ、諦めな)





影でグチグチ言われるのは好きじゃないが、こうやって注目を浴びるのも、たまには悪くない。新設野球部が強豪校を倒したと噂になってから、夏が終わっても俺たちの人気は衰えなかった。たぶんこの状況は七組に限ったことではないはずだ。


「おい、阿部!俺たち噂されてんな〜。モテモテじゃんっ」
「あほか。調子のってまたフライ落とすなよ」
「阿部は気になんないのか?」
「別に…。そういう花井は気にしてんのか?」
「べっべつに!でも、こんだけ言われたら気になんないほうが少ないだろっ」



俺はそんな周りの話になんか気にかけない。一人を除いては。



「は?阿部のどこがかっこいいのよ。わけわかんない」
(ちょ、名前!聞こえるよっ)
「本当のこと言ってるだけじゃん。あいつはただのタレ目キャッチャーだよ」
(…まあ、確かにタレ目だけどさ…)
「阿部よりか、まあーだ榛名先輩のがいいよ」
(誰それ?)
「こないだ合コン行くって言ったじゃん?そんときにいた人なんだけどさー。なんていうか…、顔はまあまあなんだけど、性格がねー…。ちょっと"俺様"でさ。ただでさえ人数合わせで嫌いな合コン参加したのに、これまた大嫌いな"俺様"きたよー!って思ってさあ…」
(はあ…、それは大変だったね)
「ほんと!まあでも、性格も顔も残念な阿部に比べればいい方だと思う。わたしは」
(ああ、そゆこと。今話が繋がったわ。阿部くんも"俺様"だもんね)
「うん。嫌味なね。今はきゃっきゃっ言われてるけど、たぶん彼女とかはできなさそう」
(そう?)
「実際付き合うのはちょっと……みたいな人ばっかだって」
(そうなのかなー?)
「そうそう。あたしが保障する。阿部はモテない!」



「おいコラ名字!おめぇ、黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!」
「ちょっと、盗み聞きしないでよね!タ、レ、目、くんっ」
「おまえの声がでかいんだよ!」
「わたしはいたってお淑やかですけど?」
「は?おまえアホ?」
「何よ!阿部なんて毎日球遊びしてるだけのアホでしょ!あんなものを見に行く人の気が知れないわっ」


「………くっ」
「ちょっ、何笑ってんのよ!」
「おまえさ…」
「な、何よ!」
「試合見に来てただろ?しかも一番前…ぶふっ」
「は、は!?な何言ってんの!?見間違いでしょっ、どうせ…」
「や、俺ずっと見てたから間違いない」
「なっ…………」
「しかもおまえずっと俺の名前叫んでただろ?」
「っ………」
「?何赤くなってんだ?俺なんか言ったか?」
「…ば!」
「…ば?」
「馬鹿!阿部の馬鹿!へちゃむくれ!そのタレ目なんか、勢い余って落ちちゃえばいいのに!」

名字はそうわめきながら教室を走って出ていった。その後を名字の友達が追いかけていくのが見えた。

「なんの勢いだよまったく…」




俺は周りの話になんか気にけない。そう、名字を除いては。


「まったく、何なんだよあいつは…」
溜め息混じりに、水谷と花井の輪に戻る。

「なあ…、お節介かもしんないけど、名字さんって阿部のこと好きなんじゃねーの?」
「あっ花井!俺も思った!」
「試合見に来てたんだろ?しかも顔真っ赤だったし、態度見てたらさ…。どうなわけ?実際」


「ふっ……さあな。」



((ああ、そうか…))









確信犯なわけですね


(最近よく目が合うあの子、俺のこと好きなんじゃね?って思ってる君!それは君もしょっちゅう見てるってことだよ!)
(…水谷、誰に言ってんの?)