現在、土曜日の午後一時。部活が終わり、今は自宅の階段を上っている。これから、着替えて飯食って彼女とデートに行かなければならない。高校生とは、忙しい生き物である。

ガチャ
部屋のドアを開ける。そこには、セーラー服姿で背を向けて、テレビを見ている名字がいた。

「な、なんでいんだよ。今日は部活だから遅れるっつったじゃん」

そう。この名字が例の彼女。

「うん。わたしも学校に用事あって行ったんだけどさ。それ終わって暇だったから迎えに行ってあげようと思って。そしたら、シュンくんが部屋に入れてくれた」

名字は、テレビを見たまま答えた。テレビ画面はちょうど名字と被って見えない。俺も名字に背を向けて上着を着替える。それにしても、名字がテレビを見ているというのにこの部屋はとても静かだ。微かな波の音しかしない。一体、名字は何を見て……


「…っ、ま、まさか…。名字、おまえ!」

名字がゆっくりとこちらを振り返る。その手に持っているのは、二冊のDVD。テレビ画面では、海でセーラー服を着た女がパンチラしてる。


「やっとわかった?彼氏の部屋に入って、試しにエロ本探してみよう!ってなって、手始めに探したベッドの下にエロビデオがあった時の彼女の悲しみがわかった?」
「や…それはわかんないけど…」
「ですよねー。阿部は男だもんねー」

顔は笑っているのに、この体から溢れ出ている黒いオーラはなんだろう。触れてはいけない気がする。


「ちがっ。それは田島が無理矢理っ…」
「ふーん。そうやって田島くんのせいにするんだ」
「ほんとだって!俺はすぐ返すつもりで床に置いといたら、たまたまベッドの下に…」
「嘘だ!だいたいねー、ベッドの下ってのがベタ過ぎるのよ。引き出しを二段にするとかして隠しときなさいよ!上にフェイクとしてファッション雑誌置いたり」
「デスノートかよ!」
「これをおかずにベッドで何やってたのよ!言ってみなよ。それとも、言えないようなことしてたのかなー?」
「っ…なんもしてねえよ!」
「白々しいわこのタレ目!」
「タレっ…!?」
「だいたいね、タイトルが『セーラー服を脱がさないで』、『十七歳 高校生』って、生々しいのよボケ!今すぐこのセーラー服着替えたいわ、気持ち悪い!」
「べっ、べつにそれと名字は無関係だから…」



ブチッ


今目の前で、何か、切れてはいけないような音がした。



「あぁん?関係ない?そうだよね、わたしには関係のないことだよね!でしゃばってごめんね!!」
「いや、そこまでは…」
「こんなエロビデオ、二冊もベッドの下に隠して…。恥ずかしいと思わないの!?」
「ちょ、そんなこと大声で言うなよ!誰かに聞こえたら…」
「聞かれればいいのよ、自分の醜態を!だいたい、わたしにはキスしかしてこないヘタレのくせに、こんなDVD見て喜んじゃって…この欲求不満男!キモい!」


そしてなぜか彼女にチョークスリーパーをキメられる俺。高校生とは、わけのわからない生き物である。




「さっ、今だ!シュンくん、シャッターチャンス!」

「はい!」

ちょ、コラ、シュンてめー、写メ撮んな!


「この写真、今のエピソードも添えて学校のみんなに送っちゃってもいいのかな〜?」
「………今回はなんだよ」
「駅ビルの喫茶店でケーキおごって!」


彼女は、楽しそうに笑った。








高校生とは、危険な生き物である。



(今度は、もっとかっこよく部屋に連れ込んでよね、と彼女が耳元で囁くので、俺は笑いながらシュンの頭を殴った)