私は折原くんが好きだ。彼の顔が好きだ。私は折原くんが嫌いだ。彼の性格が嫌いだ。つまり私は、彼の顔が好きで彼の顔以外の全てが嫌いなのだ。


私のクラスの折原臨也くんは、はっきり言ってモテる。彼について女の子たちがキャーキャー言っているのを何度も聞いたことがあるし、何人か告白して振られたということまで耳に入ってきている。たしか、去年の私のクラスにも振られて泣いてた子がいた気がする。私は先程述べたように、折原くんの顔しか好きじゃない。性格が悪い…とまで分かるほど関わっていないのでそこまでは言えないが、私は彼の人を蔑んだ様な、あの余裕な態度が気に食わない。苦手意識さえ抱く。彼の不思議な雰囲気は私を不快にさせた。だから彼とは特に交流しない。今まで(…と言ってもまだ六月だが)彼と一対一で会話をしたことはない。クラスメートとして当たり障りのない相槌をうった事くらいだ。目に入ったら、あぁー顔はかっこいいんだよなあ、とは思ってしまうけど。


だから、彼と私の間には何も起こらないと思っていた。


   ;・○o・;○;・o○・;
   ○o・..・*・..・o○


ある日の清掃の時間。私はゴミを捨てるために、一人でゴミ箱を持って焼却炉に向かった。焼却炉は学校の裏手にあり、いつも人気はない。


「名字さん」

ゴミを焼却炉に適当に捨て終えた時、後ろからいきなり声をかけられた。まさか、ここにきていじめか!?なんて変な杞憂をしながら振り向くと、そこには折原くんが立っていた。

「折原…くん?」

彼はいつもの飄々とした口振りで言った。

「疑問形?でも名字さん、俺のことよく知ってるはずだよね?なんでわかると思う?同じクラスだから?いいや、君からの視線をよく感じるからさ」
「はあ…、ばれましたか」

そんなあからさまに見とれたことはないと思うのだが、気付かれていたとは…。いやはや、私としたことが。とんだ失態だ。


「何?俺のこと好きなの?」

折原くんが相変わらず余裕な顔をして言う。私は即答した。
「違います。」

「照れではなくて?」
「照れではなくて。むしろ嫌いというかなんというか」
「ふーん、計算外。でもまあいいや」

何この人。なんか一人で納得してる。


「俺と付き合ってくれない?」
「どこに?」
「君の頭はシズちゃん並みだねー。ほんと困っちゃうよ」
「シズちゃんて誰」
「名字さん、男女交際って知ってる?男とか女とかそういう意味で付き合ってほしいんだよ、俺は」
「はあ…、私は折原くんのことが嫌いだとついさっき言ったばかりなのに、意味がわかりません」
「メリットならあるよ」

いや、メリットのこととか言ってないし。てか、付き合うことにメリットとか考えるものなのか?


「名字さん、君は普通に可愛いよ。何がって主に顔が。そして性格も悪くない。そこそこモテる。でも、そのわりに君はなぜかあまり男ウケしない。どちらかというと女子にモテる傾向があるんだ。女子にモテるとは言っても、レズという意味じゃない。男から見たら普通だけど、女から見たら凄く可愛い。こういうの、よくあるでしょ?これはつまるところ、男女の価値観の違いからうまれるものなんだ。まあ、これは極端な例だけどね。もう俺が君に交際を申し込んだ理由がわかったんじゃない?つまり、俺は君と付き合って、俺に纏わりつく邪魔な面白くもない女たちを追っ払う…ってわけさ。“女子から見て可愛い君”ならうってつけな役だと思わない?」

「はあ…。なんか、色々酷いこと言われてる気がするんですがツッコむ気が起きません」
「俺は君をもう必要のなくなった観察対象の駆除に利用させてもらう。君は俺のことが好きじゃない。それでいい。俺も君のことが好きじゃない。大いに結構だ」
「折原くんの策略はわかったよ。でも、それはあくまでも折原くんにとってのメリットでしょう。じゃあ私のメリットは?」
「うーんとね、それは“俺と付き合える”ってことかな」
「ハイ?」
「俺と付き合えるなんて、それこそメリットじゃない?幸せ者だねー、名字さんて」

何このナルシスト野郎!どんだけ自分のこと買い被ってるんだ…!て、ちょ、ウインクすんな!うざ…!ぶんなぐりたい!


「…すいません。そういうことなら再度お断りします」
「まあ、そう言わないでよ。ケーキバイキングとかだって、いつでも連れてってあげるよ。名字さん、好きだろ?ケーキとか」
「ケーキ…!」
「うん。それでどう?」

「ケーキ…ケーキ……」



「つ、付き合います!」


こうして、折原くんとの奇妙な交際が始まったのである。




いざやくんの策略


(そのケーキバイキング、もちろん奢りだよね?)
(…めざとい女だ)