「シズちゃん」

「あぁん?その名前で呼ぶなっつってんのがわかんねえのか?死にてえのか?死にてえんだな?よし、殺す」

「しょうがないじゃない。今日君に用があるのは俺じゃない。この俺の後ろに隠れてる子さ」

「死にたいのか?っていう質問の答えになってないよ、臨也くん!」

「…誰だそいつ?」

「だから言ってるじゃない。君に用がある子。面識無いから話しかけづらいとか言って俺に仲介役を頼んだ…ってわけ。ほら、名前。いい加減前に出て話しなよ。俺はもうシズちゃんの憎たらしい顔を見て話すのは限界だ」

「…わ、わか、った…」


「あ、あの!」
「なんだ?」
「名字、名前と申します!」
「はあ…」
「好きです!」
「…あ?」
「付き合ってください!」
「はあ?…正気かあんた」
「お願いします!じゃないと悲しくて悲しくて死んじゃいます!」
「おまえなぁ…告白してる相手の話くらい聞けよ!」
「むしろもういっそ死にたい気分ですうわああああ…!」


「シズちゃん、厄介なのに好かれちゃったね。まあ、頑張って〜。じゃあ、俺はこれで☆」





   ;・○o・;○;・o○・;
   ○o・..・*・..・o○





「あー…そんなコントみたいなことあったねえ」
「あったねえ、じゃねえよ!」

俺は、イスに座って湯気の立つコーヒーを見つめている名前に怒鳴った。

「だって、そんなの五年も六年も前の話じゃんか…あちっ」
「猫舌のくせに飲もうとするからだ」

舌を出してひーひー言ってる名前に水道水を出してやる。

「ありがとう。…ま、昔の私は可愛かったって話でしょ?」
「ちげーよ」
「あの頃は、ほんっと静雄のこと好きだったからねえ」
「はあ?じゃあ、今はちげえってのかよ」
「えー今ぁ?今はどっちかっていうと愛してるかなー」
「…かっこつけやがって」


俺たちが交際を初めてから、名前が言うように五年も六年も経った。六年前と今を比べてみると、そこには色々な“変化”がある。変わり者だった名前も今では落ち着きのある社会人になった。好きが愛してるになった。他にも、夜景の見えるレストランだったのが昨日の残り御飯になった。映画館だったのが、金曜ロードショーになった。喧嘩をして、悪くもないのに「ごめん」と謝る数は名前の方が多かったのが、今では俺の方が多い。名前と同棲を始めて二年。仕事を終えて家に帰ると電気がついていて、御飯を作って待っている人がいるというのは良い。昔みたいなときめきは無いが、その分の温かさが今にはある。たくさんのことが変わった。たぶん、これからも変わり続けていく。それでも、今ここにある普通な物を見失わないように。大切な人を見失わないように。これからもずっと俺の横で名前が笑っているように。俺は呪文を唱えた。



「名前、結婚しないか」
「その言葉をずっと待ってた」


名前は、昔のようにきひひ、と笑った。









愛してるの呪い


(式に臨也は呼ばないからな)
(えー!私たちの恋のキューピッドなのに?)

(へっくしゅん!…あれ、誰か俺の噂話してる?まあ俺イケメンだし情報屋だし巷で噂になっちゃうのも当然だよね)