今日の夕飯を買うためにコンビニへと出向いた。一人暮らしなのだから、自炊をしてちゃんと栄養を取らなくてはと思うのだが、今日みたいに限り無く面倒臭くてコンビニで済ましてしまう時もある。コンビニ弁当の入った袋を提げながら帰路を歩いていると、ズボンのポケットに入っている携帯が着信を知らせた。どうせ正臣だろうと思ったのだが、画面を見て驚く。あの情報屋ではないか。面倒なことでないといいのだが…。


「…もしもし」
『もしもし?帝人くん?ちょっと相談があるんだけど…いいかな?』
「あ、いいですけど…。僕が答えられるような範囲の事でお願いしますよ」
『もちろんだよ。君に聞いてもしょうがないような話をするために俺がわざわざ電話したと思う?』
「思いません。ならいいんですけど。で、相談というのは?」
『名前ちゃんがここ二三日、目も合わせてくれないんだけど、これってどういう事なんだろう?』
「…っ」

僕は驚いた。…と同時に疑問に思った。あの折原臨也が女子高生に好意を寄せていて、ロリコン趣味があるのではないかと訝しがったからではない。そんなことはもうとっくの昔から堂々たるアピールが行われていたので知っていた。そのアピールをいつも笑ってかわす名前。その図が周知の事実だった。しかし、先日名前から正臣に言わないでほしい大事な話があると言われた。正臣が聞くと大騒ぎをして事を荒たげる可能性があるから…と。そこで、彼女の口から「好きな人ができたかもしれない」と聞いたのだ。名前は聞かなかったが、直感で相手は折原臨也だと思った。とうとう臨也さんも報われる時が来たんだなぁ…としみじみと思ったのが記憶に新しい。それなのに、目を合わせないとはどういうことだ?折原臨也ではない他の誰かを好きになったということなのだろうか?


「…僕にはわかりかねます」
『えー、ダラーズ使ってでもなんとかしてよ』
「できませんよ…!臨也さんこそ、情報屋を活かして調べればいいんじゃないですか」
『情報屋はね、その人の過去の出来事はわかるけど、未来とその人の現在の心情ってのは現在の情報じゃどうにもならないわけ』
「はあ…。じゃあ、明日直接聞いてみたらどうですか?」
『…そうだね。そうすることにするよ。名前ちゃんが話を聞いてくれれば、だけどね』


そう言って電話を切られた。もしタイミングがあれば、明日名前に詳しいことを聞こうなどと思いながら帰路を急いだ。




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   ○o・..・*・..・o○





翌日。なんと奇遇なことか、名前と二人で帰ることになった。これはチャンス。昨日、臨也さんが言っていたことの詳細を尋ねてみよう。



「名前さ、臨也さんのこと避けてるって本当?」
「!…誰から聞いたの」
「臨也さん」
「……そうだよ。避けてる」
「どうして?」
「………」
「この間、好きな人ができたかもしれないって言ってくれたよね」
「…うん」
「あれは、臨也さんのことじゃなかったの?」
「……そう、だよ」
「やっぱり。じゃあ、尚更どうして避けたりするの?」
「そ、それは…」

名前がもう少しで話してくれるところだったのに、とんだ邪魔が入った。



「名前ちゃん」
「い、臨也さん…」

名前は臨也さんから気まずそうに顔を逸した。なるほど、避けられているのは本当のようだ。


「ねぇ、名前ちゃん。どうして俺のことを避けるんだい?何かしちゃったかな?」

“何かした”?今まで散々ストーカーまがいなことまでしていたじゃないか。…というツッコミは、事実上両思いの二人には不要なのだろか。わかりかねる。


「……私、」

名前は、僕の方をちらっと見た。


「臨也さんの目を見るだけで妊娠しちゃいそうで嫌なんです!」



「「…は?」」

僕と臨也さんの声が重なる。


「だって、臨也さんって淫乱な顔してると思わない?絶対、あの目に見つめられた何人かの女性は妊娠しちゃってるよ…!」

必死に僕に訴えてくる名前。


「…俺はどんな化物だよ!」
「まあまあ、臨也さん。両思いなんですから、結果オーライじゃないですか」
「え!?それ本当?じゃあ、あの名前ちゃんの目は何…?」



僕は、名前の本当に臨也さんを軽蔑したような目は見なかったことにした。









おかしな彼女


(臨也さんが私といる間、ずっと目を瞑ってくれるなら付き合ってもいいですよ。私、まだ妊娠はしたくないんで)
(だから、俺にそんな不思議能力は無いって何回言ったらわかってくれるのかなあ?)
(…名前も、いい加減照れてるだけって気付かないのかなあ…)