「折紙くん!この間貸した青エクのDVD見てくれた?」
「見ましたよ!すごく良かったです!」
「でっしょー?」
「ジャパニーズアニメ素晴らしいです!」
「で、誰が好き?誰が好き?雪男?雪男?」
「んー、僕は燐ですかねー」
「えー!なんでー!雪男かっこいいじゃん!」
「なんだろ…なんか、燐に通じるものを感じたというか…」
「ふーん。性格とかは全然似てないのにね」
「名前さんは雪男が好きなんですか?」
「うん!かっこいいし、キモいし、エロいし、ブラコンだし…大好き!」
「へえ(あれ…なんか褒めてないような言葉が…)」
「あっ、でもシュラたんも好きだなー。おっぱいおっぱい!出雲たんも可愛いし、子猫さんも超ヒロインだし…」
「あ、僕の貸したナルト読んでくれました?」
「うん!読んだ!いやー、飛び飛びでアニメとかジャンプ見てたけど、一話から読むとまた感動度が違うねえ」
「ちなみに誰が好きですか?」
「えーっとね、カカシ先生に、シカマルに、我愛羅かな!」
「あっ、僕の友達が今度我愛羅のコスプレやるって言ってましたよ」
「えっうそ!その人カイブ入ってる?」
「はい!多分」
「えっえっじゃあ紹介してよー!」
「了解です!」
「わーい!やったー!折紙くん大好きー!」
「っわあ!ちょ、そんなっ…抱きつかないでくださいよお…」
「なんだとこのぅ可愛い奴だなあ。折紙氏くんかくんか」




毎度の折紙くんとのバカトークを終え、ベンチで休憩。折紙くんとは毎回オタク話で盛り上がるのだが、彼はまだ“ふつう”のオタクなので、私の素性をバラすわけにはいかず、会話も色々と抑えて話さなければいけないのが大変だ。ついうっかり腐った発言をしかねない。危ない、危ない。私の隠れ腐女子ライフがガラガラと音を立てて崩壊するところだった。これからは折紙くんとのオタクトークもちょっと控えようかな…。


「よっ」

声と同時に、差し出されたコーヒー。

「虎徹さん」

彼は私の隣に何の戸惑いも無く腰を下ろした。私は、彼にもらったコーヒーをすすり、美味しいですとお礼を言う。

「あー…その、よぉ」
「ん?」
「俺おじさんだからさー、最近の若い子にはついていけない時が正直時々…ときっどきあるんだけどな?」
「…?はい」
「おまえ、折紙のこと好きか?」
「はい」
「じゃあブルーローズのことは?」
「好き」
「…じゃあ、俺は?」
「…好き」

何が言いたいんだろ、この人。

「ほら、そういうの!そういうのがダメなんだってぇー」
「何がです?」
「誰にでも好きって言っちまうところだよー!」
「へ?」
「だから、あんましホイホイ言って安売りしてっと折紙が誤解すんだろ?」

…この人、絶対私と折紙くんのこと勘違いしてる!デキてると思われてる!なんで虎徹さん、こんなにバカなんだろう!私、虎徹さんだけにクッキー作ってきたり、トレーニングでも隣のマシン使ったり、挙げ句の果て好きな女性のタイプとかだって聞いて、終いには「私年上がタイプなんです!パワフルな人とか!」なんて言っちゃったのに…!ばか!ばか!おじさんのばか!


「あれ、邪魔をしてしまいました?」

そう言ってスマートにこちらに歩いてくるのはバーナビー。いつもなら空気嫁うさぎちゃん!って言ってるとこだけど、今はこの隣にいるおじさんが鈍過ぎてどうしようもないのでもないむしろ助かった。

「バニーちゃん!」
「バーナビーです!」
「どうでもいい!」
「どうでもっ…」
「それより、このおじさんなんとかしてよ!」
「虎徹さんがどうかしたんですか?」
「もうほんとね、ばか!馬鹿なのこのおじさん!」
「はあ…その意見には激しく同意しますが…」
「おい、さっきから黙って聞いてりゃお前らなー!」

なんか虎徹さんまで立ち上がってきた。なんでおじさんが荒ぶるの?おじさんがいけないんだからね!全然わかってくれないから!歳をとると感度が鈍ってくるのかな?だから?だからなの?


「……なんだよ、名前。そんなに見つめんなよー」
「………」
「…名前?どした?」
「わかんないんだったら言ってあげます!好き!」
「…え?」
「好き!好き!好き!大好き!特別大好き!」
「えっちょ、え!?バニーちゃん助けっ…て既に居ない!ハンサムエスケープ!?」
「好き!好き!虎徹さんが好き!」
「……」
「……」
「……」
「…安売り、してみました」
「…ぁ、はい」
「…セール中なんでおひとついかがですか…」

我ながらなんて言い草だ。虎徹さん全然わかってない!とか思って、すっごい叫んでしまった。馬鹿か私は!なにが「おひとついかがですか」だよ…!今更恥ずかしい。虎徹さん、まだキョトンとしてる。はぁ…最悪だ…。隠れ腐女子ライフよりも先に片思いライフが終わった…。


「……あっのー」
「はい、なんですか虎徹さん!」
「なんで名前が怒ってるんだよぉ」
「怒ってません!」
「ほんとに?」
「ほんとに」
「ほんっとおーに?」
「しつこいですね!本当です!!」
「…じゃあ、『虎徹さん大好き』ひとつください」
「…え、」
「ほら、はやく」
「えっ、え!?」
「お客さん待ちくたびれてるんですけどー」
「こ、虎徹さんっ…その…大好き、です!」


虎徹さんは、私を抱きしめて「これでニコニコ現金払いな」なんて言って笑う。全然現金でなんて払ってないよ。それでも私は「ちょうどお預かりいたしました」なんて言うんだから、大概どうかしてる。






好きの安売り



「はぁ……虎徹さんの腕の中…すごいおじさん臭い…好き」
「…それ褒めてんの?」