ああ、心配だ。ものすごく心配だ。たくさん友達できるかなあ、とか。勉強ついていけるかなあ、とか。変な女に引っ掛からないかなあ、とか。ああ、心配。実に心配だ。何が心配かというと、それはもう心配なのだ。佳主馬のことが。

「よっしゃー!勝ったー!佳主馬はほっんとジャンケン弱いよね」
「またパーで負けた…」
「これで五勝二敗。あのキングカズマが私に五回も負けてるなんて、みんなが聞いたら驚くだろうなあ!」
「…そんなこと言って、ほとんど引き分けになった後のジャンケンで勝ってるだけでしょ」
「う…、でもキングと十五分間やり合って引き分けるんだから、私も中々じゃない?」
「…楽天家」

時間制限を設けて、いつも佳主馬とバトル!…っていっても、私がキングに敵うわけないから、ハンデとして佳主馬の右手は封印してもらっている。だから、佳主馬がコマンドを入力するのは左手のみだ。それでも勝てないのだから、さすがキングカズマと言うべきか。

「ねえ、佳主馬」
「ん」
「中学で友達百人できた?」
「できるわけないじゃん」
「できる!できるよ!私にもできたんだから!」
「それは名前姉のフットワークが軽いからでしょ」
「えー、佳主馬可愛いんだから絶対百人なんてちょろいと思うんだけどなあ」
「……(あんま嬉しくない)」
「『僕かずま!13歳!か、かずまたんって呼んでくれていいんだからな…!』とか言ってにゃん!ってすればイチコロだよ」
「…名前姉は僕のことなんだと思ってるんだよ」
「え?可愛い従兄弟」
「……(嬉しくない)」


佳主馬は私の従兄弟だ。昔から、弟みたいに可愛がってきた。でも、私ももう高校生になり、佳主馬も今年中学生になった。今までのようにはしてあげれない。いつも私の後ろに隠れてしまっていた佳主馬が、今ではキングで、身長も高くて、少し生意気だ。私も佳主馬も変わった。なら、私と佳主馬の関係も変わらなくてはいけないのだ。今のままじゃいられない。佳主馬を守ることは、もう私には無理だ。子離れ、とはこのことだろうか。子の旅立ちとはまた、嬉しいやら悲しいやら複雑だ。







『かずま!』
『はい!名前隊長!』
『よし、いい返事ね。訓練の成果だわ』
『うん。ありがとう名前隊長』
『いいの。だって、私は隊長なんだから!舎弟を守るのが隊長なんだよ!』
『へー、隊長って、すごいんだなあ』
『だから、かずまは私が守ってあげるからね!』
『うん!ありがとう隊長!』
『よせやい!あんたは黙って、俺の背中についてこりゃあいいんだよ…』
『…?隊長、なにそれ?』
『こないだドラマで言ってたかっこいい台詞だよ』
『へー、隊長は何でも知ってるんだね!すごいや!』




「…ぷっ……」
いかんいかん。小さい頃の佳主馬とのやり取りを思い出して吹き出してしまった。佳主馬が不審げにどうしたのと聞いてくる。

「昔のこと思い出しちゃって」
「ふーん?」
「ほら、昔、私のこと隊長って呼んでたでしょ?」
「ああ、たしかに。でもそれって、僕がまだ小学校にも入ってない時だよね」
「もう佳主馬ったら女の子みたいに大人しくて、私が守ってあげなきゃ!っていつも思ってた」
「ふうん…。…今も?」
「今?まあ思ってるっちゃ思ってるけどもう子ば、な…」

佳主馬に腕を掴まれる。驚いて佳主馬を見ると、ちょっと冷たい目をした佳主馬がいた。こんな顔ができるのか、最近の中学生は。お姉さんびっくり。ていうか、掴まれた腕が痛いんですけど。ちょ、痛い!イタタタタ!力の加減くらいしろ!中坊!


「“かずまは私が守ってあげるからね”」
「か、ずま…?」
「そう言ったよね?」
「う、うん。でも、佳主馬も大きくなったし、私みたいな老いぼれはそろそろ引退しようかと…」
「それなら好都合。世代交代しよう」


何が?何が世代交代?佳主馬に尋ねようとしたら、腕を引かれてキスをされる。そしていやらしく自分の唇を舌で舐める佳主馬。まじでどこでそんなえろい仕草を覚えた!ネットか?ネットなのか?


「これからは、佳主馬隊長って呼んでよね」










君を守るのが仕事



(ちょ、押し倒すな!)
(隊長の権限)
(キスより先は高校生になってから!)
(…先代隊長の命令ならしょうがないか)