切り分けたアップルパイの入ったカゴを腕に提げ、以前食べさせることを約束したフレイキーの家へと向かう。
フレイキー喜んでくれるかな、と友人の控えめな笑顔が頭に浮かび一人くすりと笑みを溢す。
「やあっ名前」
しかし青色のジャージに赤いマントを身に纏う彼を見た瞬間、楽しい気持ちは萎えてしまった。
「こんな所で会うなんて偶然だね!やはり私達は運命の赤い糸で結ばれているんだ!」
「…そうですか」
「目には見えないけれど私達の小指にしっかり結ばれているはずだ、そうだそうに違いない」
止まらない口に何回呆れを感じたか。とりあえず無視だ無視。
話を続ける青の似非ヒーローの横を通る。
「そういえば、このカゴには何が入っているんだい?」
え?まさかと思いながら横にいる彼の方を見ると、ヒーローさんは私の腕に提げていたはずのカゴを持ち、不思議そうに見つめていた。
「いっいつのまに取ったんですか!」
「美味しそうな匂いだね、この匂いはアップルパイかな?誰かにあげるのかい?」
「あなたには関係ありません!」
彼の手からカゴを強引に奪い、逃げるように走る。
後ろを振り向かず、追い付かれるのは当然かもしれないがそれでも走った。
すると、左から大きな影が伸びた。見てみるとすぐそばには大きなトラックが。
あ…だめだ、死んじゃう。
「っ!名前!」
背後から彼の声が聞こえたと同時に、体が浮くような感覚に陥った。思わず瞑っていた目を恐る恐る開く。
目の前には、彼の顔があった。
「えっえっ?」
状況が掴めず辺りを見渡すが薄い青に所々白いわたがしみたいな物体が浮かんで…って、
「と、とととと…!」
飛んでると言いたかったのだが上手く口が回らない。
「大丈夫かい?」
ヒーローさんは私に向かって優しく微笑む。今、私はヒーローさんにお姫様抱っこをされている。
「…ありがとう、こざいます」
また助けられてしまった。
前に何処からかフォークが飛んできたり車に轢かれそうになったりした時も彼は必ず助けに来てくれた。
「いいんだ、君が無事ならそれで」
そして助けた後決まって微笑み、同じ台詞を言ってくる。
「…何でいつも助けてくれるんですか。どうせ死んでもまたすぐに生き返るのに」
そう言うと、上げていた口角は下がり、悲しそうな表情で此方を見つめてくる。
「そうだとしても、名前が死ぬのは嫌なんだ。それに名前には死ぬ時の苦痛を味わって欲しくない」
震えながらも答えてくれるヒーローさんに対し気持ちがだんだん変わってきた。
今までさんざん私を口説きに来てはピンチの時助けて好感度を上げようとしているんじゃないかと思っていた。
でも、実は全然そんなことはなくて私を助けてくれるのは本当に私のことを考えてくれていたからだ。
「ごめんなさい」
謝ると、彼は不思議そうに首を傾げる。
「何故名前が謝るんだい?君は何も悪いことをしていないよ」
「してないんですが、思っていたんです」
私の答えにまたもや彼はううん?と首を傾げる。そんな彼の姿に思わず笑みを浮かべた。
「ありがとうございます、スプレンディドさん」
「…っ!今、名前…!」
「どうかしたんですか、スプレンディドさん」
そう言うとスプレンディドさんは嬉しそうに顔を綻ばせたと思ったら突然抱き締められた。
「ちょっスッスプレンディドさんっ抱き着くのは降りてからにしてくださいいいっ」
しかし上空にいる今はその行動は恐怖にしか感じられない。
「名前好きだ、大好きだ、世界中誰よりも君を愛してる!」
「せめて降りてからでお願いしますううううっ!」