「……しのぶ」
そう呼びかけると、天草忍は振り返った。
彼は怪訝そうな顔をして携帯を打ち始める。
『お久しぶりです。炭川先輩。…忍って俺のことですよね?』
「……ああ」
常葉の事件のショックのせいで声を出せないと忍のクラスメートから聞いていたが、本当らしい。
ふとあの日、匡一の親衛隊長岡崎と携帯で会話していた君沢忍が思い浮かんだ。
忍はまたぽちぽち携帯を打って自分に見せる。
『…あの、出来れば下の名前で呼ばないで欲しいんですけど』
「……」
付き合っていたとき、俺は君沢を忍と呼んでいた。
(…いいじゃないか。呼ばせろよ)
(もう呼べないと思ってたんだから)
言葉が出てこない。
『炭川先輩だって君沢忍と混同するんじゃないですか?』
(混同するかだって?)
(お前は君沢本人なんだろ?)
確信に近い疑問は口から出ることなく喉に詰まる。
「…伸二」
「?」
「伸二って呼べよ…ッ」
流れ星に祈るような
ささやかで
それでいて心の奥底から沸き上がる強い、望み。
「………?」
不思議そうにこちらを見つめる忍の両肩を掴んで懇願した。
「なんでも言うこと聞くから」
「なぁ」
忍は慌てたように揺すぶられながらも文字を打つ。
『俺、声が出ないんですってば』
「…ッ」
その困ったように眉を下げる表情が、君沢忍と重なる。
嗚咽を喉に詰まらせて、ただ俺は目の前の身体をかき抱いた。
名前を呼んで