無機質な白に囲まれた部屋。

そこはよく俺が逃げ込んだ保健室に似ていた。




「アザミ、死ぬの?」




そう問い掛けても、ベッドに横たわるアザミは無表情のまま自分を見つめるだけ。

青白い顔。

細い息。

狼のようだった威圧感も消え失せ、命の灯すら僅かな人間がそこにいた。



「ずるい、ずるいよ。なんで俺を殺したんだ。一人で死ねばよかったのに」

「……」



既に死んでいる俺が、死にそうな人間を見てこんなに苦しくなるなんておかしい。

しかも自分を殺した奴。

地獄に送ってやると心に誓ったじゃないか。



「全部、全部お前のせいだ。殺したいほど憎いのに。死ぬのかよお前」



アザミを覆う布団を握り締めると、その掌に冷たい手が重なった。





「……お前のためなら死んでもいいって言えばいいのか」

「……もういい。そんなの」

「は?なんだよ生き返れないんだろ俺がそう言わねぇと」

「…いいんだ、ほんとに。俺の人生はあそこで終わった。死神が約束なんか守るわけなかったんだ」



そう。人がもがき苦しむのを楽しむ照葉が俺を生き返らせるわけがなかった。



『死神が人間との約束なんて守るわけないじゃない。馬鹿だね、忍。馬鹿で、可愛いかったよ』



この世のものとは思えないほどの綺麗な微笑みを最後に照葉は消えていった。


(本当に俺はバカだ)

(でも、どこかで無理だってわかっていたのかもしれない)


(俺は認めたくなかっただけだ)



「……悪かった」



あの傲岸不遜なアザミがうなだれるように頭を下げた。

それが殊更俺の怒りに触れて、思わず掴みかかる。



「今更…っ!今更許されようなんて思うな!やるなら最後まで俺にお前を憎ませろよ!」

「……」



衿元掴んでどんなに揺すぶってもアザミは眉を寄せ下を向いたまま。

俺はひとしきり叫ぶと一気に力が抜けた。



「……もう、いい。憎いお前を道連れにできるんだから」

「……辛くねぇのか?」

「お前が言うなよ。そりゃ橋本達と別れるのは辛いけど―…」

「………」

「一人で死ぬ方が辛い。孤独の中一人っきりで息を引き取るのは本当に辛くて寂しいんだ」

「……」

「お前も、だろ?だから俺を殺したんだろ?地獄の底まで一緒にいてやるよ。嫌だって言っても絶対離れてやらないから」



そう言って微笑めば、アザミは強い力で俺を引き寄せ、厚い胸板に俺の顔を押し付けた。



「…お前ほんとに救いようのない大馬鹿野郎だよ」

「知ってる。匡一だってそんな俺が好きなんだろ?なぁ、名前…呼んで」

「…………しのぶ……」

「……嬉しい。お前、付き合ってるとき一度も呼ぼうとしなかったから。なんでだろう、泣きたくなってきた」


俺は涙を流し、アザミはその身体をきつく抱きしめた。









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