「俺はお前の事が本気で好きだった」



俺がそう告げたとき、アザミは力一杯机を叩いた。

バァンと響く音に思わず後退る。



「嘘だ。お前は伸二が好きだったんだろ?いっつも跡なんか付けてやがって。お前の言葉なんて信じられるわけないだろう」



いつも何を考えているかわからない奴だった。

ずっとアザミの本心を知りたかった。

声を荒立てる様子が何故か猫が自身を守るために毛を逆立てる様に似ていて、逆に自分が落ち着いていくのを感じる。



「……俺は信じてたよ」

「は?」

「俺は馬鹿みたいに信じてた。お前が俺のこと好きだって」



死ぬ間際すら、アザミがくれた指輪に縋っていた。



「……」

「信じてた。お前に突き落とされて、真実を告げられるあのときまで…」



突き落とされ、踏み弄られる指輪。

幼い頃笑い合った二人が嘘みたいだと思った。



「しの」

「でも裏切られた」



名前を呼ばれるとともに伸ばされた腕を振り払うように声色を強めた。

アザミは動きを止める。



「……」

「なぁ、匡一。俺は思うんだ。相手を信じることこそ愛なんじゃないかって。俺もきちんとお前に話せなかったことは謝るけど、跡だってお前の親衛隊に輪姦されたときに付けられたやつだったんだ…」

「!!」



お互い素直に話し合えば運命は、俺達のこれからは変わっていたかもしれない。



「おれは、匡一に、迷惑をかけたくない、から、話さなかったよ…嫌がらせも沢山受けたけど、お前が俺を好きだって信じていたから全部我慢できた」

「………忍」

「……結局俺ばっかりがお前の事好きで、お前は俺のことを全然愛してなかったんだんだな…」

「愛してる!愛してるさ!!!!!だから許せなかった!!」



(その言葉、生きているときに聞きたかった)


死んでから聞くなんて悲し過ぎる。



「見解の相違だな。俺はもうお前のことを愛してないよ」

「なんで…忍……ずっと一緒にいてくれるって言ったじゃないか…!」



『俺はずっと匡一の側にいる。世界中の奴らが匡一の敵になっても、俺だけは匡一の味方だよ』


その言葉に嘘偽りはなかったはずなのに。


「いられないよ…俺は死んでる…お前に殺されたんだから………」



どうして俺達はこうなってしまったんだろう。





「『お前のために死んでもいい』」

「!!」

「そう言ったらお前は生き返るんだろ?」

「…ッ、なんで…」

「お前のいない世界なんて生きてる価値ないんだよ…好きだ、忍。お前が俺をもう好きじゃなくても、俺はお前が好きだ」



そう言ってアザミが微笑む。

笑った顔を見るのは幼少期ぶりだろうか。

気づけば二人とも腕を伸ばし合っていた。



「……馬鹿。大馬鹿野郎だお前…」

「久しぶりだ…忍の体温…」



(温かい)

(人って温かいんだ)



(生きている限りは)



「…匡一」

「言うな」

「俺は匡一を連れてけない」

「言うな!!!」



駄々をこねる子供ようなアザミの頭をよしよしと俺は撫でた。



「俺は、匡一には生きていてほしい…」

「俺がお前を殺したんだ!!お前が俺を殺せよ!!!」



(殺せる)


(わけ、ないだろ?)



「好きだよ、匡一」




「だから、俺の分も、生きて……」







I want to…

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