忍にはいろんな奴等が寄ってくる。
叔父にあたる常葉は最初から忍だけをねこっかわいがり、俺は邪険にされてばかりだった。
「ってぇな」
不意の一撃。
忍が便所に行ってるのいいことに壁に叩きつけるかの勢いで鳩尾を決められた。
その一見細身の身体のどこにそんな力があったのだろう、俺は吐き気を催すほどの痛みに思わず呻いた。
「絶対一発は殴ってやろうって思ってたんだ。忍が受けた痛みはこんなもんじゃない。今度忍を幸せにしなかったら俺がおまえを殺してやる」
そして爽やかな笑顔でえげつないことを言う。
生明伸二というでっかい会社の代表取締役は、なぜか血も繋がってない俺に後を継がせると言ってきて、仕事のノウハウを叩き込まれてる。
「お前がやるはずだった仕事を代わりにやってやってるんだ、感謝しろよ」
事あるごとに新規事業の開拓から書類整理の雑務まで、これでもかと仕事を押しつけられており、俺が夜寮を抜け出しているのはほとんど奴のせいだった。
以前一度だけ俺を探しにきた忍と鉢合わせたとき、あいつはハッと目をみはるとともに尊いものを見るような柔らかい眼差しで忍を見つめていた。
ーーーーだが、声をかけることはなかった。
そのあと俺の耳元で蛇の這うような低い声で囁いた。
「あいつを守ってやらなかったらぶっ殺すからな」
そういえば馬鹿高いグランドピアノを贈りつけてきやがった奴もいたっけ。
忍は贈ってくる人間に会いたいとは言わなかったが、毎年届くイヴァンシェーネンのコンサートには嬉々として足を運んでいた。
『彼を傷つけたら俺がお前を殺すよ』
そんな殺人予告めいた手紙も一緒に送られてくるのだけれど、忍はもちろん何1つそんなことは知らない。
どいつもこいつもこれだから独身男は。
そのときの俺は殺人予告ならぬ恫喝の数々に辟易していたのだけれど。
ーーーーけれど、今なら奴等が言っていた言葉の意味がわかる。
アザミキョウイチはどうしようもなく自分勝手て、どうしようもなく君沢忍という1人の生きた人間を愛していた。
いつまでも君のそばで