最初はただ、好みのタイプだった。
意志の強そうな眉も、小生意気そうな瞳も、うっすらと開いたままの無防備そうな口唇も。
(ああ、泣かせてやりたい)
そんな物騒な事を考えながら。
カンナと別れた後も以前と変わらず仲良く接してやれば、あいつは案の定俺に持たれ切りになって。
あの高貴で近寄り難いほどの美しさを放つ君沢忍が、俺しか頼れる人はいないとばかりに寄り添って来るのはなかなかの快感だった。
犯してやりたいって気持ちと、このまま蕩けるように甘やかしてやりたいっていう気持ちと。
『おはよう、君沢』
『………おはよ』
一人ぼっちで教室に佇み、おはようと声をかければ安心したようにほっと口元を緩める君沢に、このままでもいいかなぁって。
(その唇にキスをしたらどんな顔をするだろう? )
いつの間にか思考はそのように移り変わりながら、徐々に距離を詰めて行けばいいと悠長に鼻歌を吹かせていた。
だって、どう見てもあの時君沢忍の一番側にいたのは自分だったから。
苦しめることでしか愛し方のわからない俺が、もしかしたら変われるかもしれないとすら思っていたのに。
『ーーーーーターゲットは君沢忍。あいつ、もう抱かれたっていうから』
『はぁ?』
アザミの親衛隊隊長、岡崎からその話を聞かされた時は理不尽にも裏切られた、という気持ちでいっぱいになった。
なんだよ、俺がこんなに大事にして可愛がってやったのに、お前はもう他の奴と寝たって?
憤慨だ。
そんな尻軽ならさっさと俺が無理矢理抱いてしまえばよかった。
誰かに取られるくらいなら、俺が奪ってしまいたかった。
ーーーーーーそうして俺は岡崎の誘いに乗って君沢を犯した。
『どうして……?』
白濁と赤い印に塗れた身体。
それでも穢れることのない、美しさ。
むしろ一層その輝きが増した気すらした。
(ああ、泣かせてやりたい)
疲れ切り、憔悴した瞳で尋ねる君沢にぞくりと高揚感が身体を支配する。
ああ、やっぱり愛しいものを泣かせて苦しめて、愛でる方が俺の性癖に合っている。
『陣内!』
俺だけの特権だった。
もうこいつは、俺に対してそう呼びかけて微笑むことはないだろう。
そのちくりと胸を刺す痛みに俺は気づかないふりをした。
その後も何度も何度も犯して、その間だけはこいつは俺を無視することが出来ないから。
やっぱり、今から思うと俺は君沢忍を愛してたんだと思う。
こんな愛し方しか出来なかったけれ
ど。
彼が死んだと聞いてからぽっかりと空いてしまった空洞。
その穴を埋めたのはやっぱりあいつだったから。
天草忍として全く姿形を変えたあいつを見つけ出し、俺はこの時しかないとばかりに暴力で屈服させて犯した。
やはり自分をこんなに高揚させるのは彼しかいない。
そして
見た
初めて頬を流れる
ーーーーーー綺麗な雫。
君沢自身、泣いているのに気づいていないようだったけれど。
泣かせてやりたくて、何度犯してもがんとして弱音を吐かなかった君沢が流すその涙が、
やっぱり俺のために流されるものではないことを残念に思う自分がいて、なんだか滑稽だった。
そんな君沢に対し傅くようにその指先にキスをした。
結局その後抵抗をやめてしまったあいつを強姦して、アザミにボコボコにされて、それでも近づきたくて。
ねぇ、いつになったらこっちを見てくれるの?
やはり俺に出来るのは、引っ掻き回すことだけ。
まぁ、楽しいっちゃ、楽しいんだけど。
悪循環スパイラル