「ほら、がっつくなよ」

「ん、だって。うまいんだもん」



無遠慮にハンバーガーにかぶりつき、ソースで白い頬を汚す俺の恋人。

呆れながらも人差し指で拭ってやると、忍はなんら躊躇いなくその指を口に含んだ。



「ばか、ここは学園じゃねぇんだぞ」

「あ、そっか」



淫猥な赤い舌が煽るようにソースのついた唇を舐める。このまま押し倒してやろうかと不埒な考えが浮かんだが、なんとか自分を諌めた。


平日にも関わらず店は人で賑わい、各々の時間を楽しむ若者達。

クリスマスイヴだからだろうか。
男女のカップルが多く、男同士の俺達は少し浮いているような気もした。



「おい、帽子も取るな」

「室内だし…。せっかく伸二がプレゼントしてくれたのに汚れちゃうじゃん」



渋々と被り直す忍の頭を軽く叩くと、鎖骨まで垂れたぼんぼんが揺れた。

まったく自身の容姿に無頓着というのは考えものだ。

他人の好奇な目に晒されぬようわざわざ耳付きのニット帽をかぶせたというのに。


当の本人は俺の苦労など全く気がつかない。



「これからどうするんだ?」

「もう暗くなってきたしツリー見に行くか」

「うん。俺、すごく楽しみにしてたんだ。早く行こうよ、伸二」



柔らかい笑みを浮かべて俺の手を引く忍。

それを素直に受け入れる俺。


繋がれた左手が熱い。


俺が折った忍の右手は綺麗なまま。


(ああ)


(夢だ)



わかってるのに



(覚めないでくれ――…)



願う自分がいた。





「伸二」

「なんだよ」



きらきらと彩り豊かに輝くイルミネーションを物陰のベンチで二人寄り添いながら眺めていた。

暗がりの中、帽子を深く被った忍は女に見えなくもないのか、時折通る人々も自分達を気にしない。



「俺、伸二とこの景色が見れて嬉しい」

「…………おれも」

「はは。伸二が素直なんて珍しいな」



くすくすと笑う忍に思わず眉をひそめて口を尖らせると、ますます笑われた。



「俺達、来年も一緒に見られるかなぁ」

「……さぁ」

「……一緒に、見たいなぁ」



ふて腐れてように放った俺の言葉をスルーして忍は独白を零すと、腕を絡めて肩にこてんと頭を乗せた。



「…伸二と一緒にいたい。できれば、ずっと」



思わず心臓が握り潰されるような痛みを感じたのは


その願いが叶わないとを知っていたからなのか。



「伸二?!」

「ホテル、行くぞ」

「はぁ?」



腕を力強く引いてその場を闊歩する。

握り締めた相手の掌は状況についていけず戸惑ってるようで、逃がすまいときつく力を込めた。



「どうしたんだよ、急に」

「お前が、可愛いことばっかり言うから抱きたくなった」

「っ、こんな時間に空いてるホテルなんかあるのか?俺、あんま金持ってな」



そんな可愛いくないことを言う口は塞いでやった。



「ばぁか。家が金持ちなんてこんなときに使わなくてどうするんだよ」



そう言ってクリスマスイヴ満室と掲げたホテルのスイートルームに無理矢理押し入った。





「しん、じ…ッん」



入ると共に交わされる口づけ。

慌てる忍の瞼、こめかみ、頬とキスを降り注ぎ、また唇へと戻る。



「はっ、そ、な。キスばっか、んぅ。…今日の伸二、やっぱり変」

「なんだよ、いやなのか」

「いやじゃないけど…唇取れちゃいそ、んっ」



今度は心臓をわしづかみにするようなことをのたまうので、もう一度塞いでベッドへ押し倒した。

舌を絡ませ合い、吸い付き、唾液を飲下する。

口づけの間に漏れる吐息すら飲み込むように。
二人でこのまま溶け合ってしまいたかった。


後は長い時間快感によがらせて。
真っ赤に染まる頬に涙ぐんだ蒼い瞳はいくらでも情欲を掻き立てた。


(好きだ)

(お前が大好きだよ)


言えたことはなかったけど、この触れる肌から伝わればいい。



「も、だめ。伸二、イきっ、たい…ッ」

「もう少し我慢しろ」



腰を揺すり快感に呑まれる刹那、視界に映る金色。
絹のように滑らかな髪には真っ赤なピアスが似合うと思った。

こうやって髪を耳にかける度に姿を覗かせれば、自分のものだと主張できるだろうか。

よこしまな独占欲。


明日


起きたら


一緒に買いに行こう――…







□□□




身を凍らせるような寒さに目が覚めると、そこは普段見慣れた自身の部屋だった。


勿論隣には誰もいない。



(冷たい)



気がつくと頬には涙が伝っていた。




(なんで)


(俺は手放したんだ)



掴んでいた、のに



掴み返して、くれていたのに




朝日が結露にかかりキラキラと輝いている。


外は雪でも積もっているのだろうか。



ああ、今日はキリストが生まれた日




(俺は)



(罰を受ける)



でも




夢に見るくらい


いいだろう?










幸せの夢


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