『天草忍としての生は橋本照葉の寿命の半分と引き換えに1年に延ばされたんですよ』



聞いた瞬間、頭の中は真っ白になった。

嘘だと思った。



俺は死神に懇願して照葉の元まで連れて行って貰う。



「やぁ、忍」



そこには普段と何ら変わらず綺麗に微笑む照葉の姿が。

俺はそんな彼に憤りを抑え切れず、カツカツと詰め寄ってその衿首を掴む。



「俺がお前の寿命の半分で生きてたって本当か?」



そう。黄泉への渡し人は照葉ではなく別の死神で。

彼は胡散臭い笑みを浮かべながら無知な俺に真実を告げた。



「何を言い出すのかと思えば………お喋りだな」



照葉はちらりと忍の背後を睨みつけると、死神は口許を隠して楽しそうに笑った。



「私も面白いことは大好きですからねぇ」

「答えろよ、照葉!」



口調を荒げると、照葉は罰が悪そうに視線を反らした。



「…別に。忍が生きたいと必死だったからさ。それに自業自得と言えば自業自得だし」

「………ッ」



熱いものが胸から込み上げてくる。

なんで。

そんな。

平然と言ってのけるこいつに、詰問することもできなかった。

自分ですらこの感情が何なのかわかりかねている。



「馬鹿じゃないのか。ばか、ばか…ッ」



俺は両目から溢れる涙を見られたくなくて、俯いたまま照葉の胸板を力一杯殴った。


橋本が階段から落ちた時、俺は橋本に残りの命の灯すらあげていいと思った。

その命の灯すら照葉がくれたものだったのに。



「俺は、生きれて幸せだったよ。友達の優しさも愛し愛される喜びも。君沢忍の時には知る由もない、泣きたいぐらいの温かさだった」

「そう。それはよかったね」



ぽんぽんと頭を撫でられると涙は一層勢いを増して頬を伝った。



「ありがとう」

「……俺、こんなことしか言えないよ照葉」



顔を上げると、やっと照葉の顔を見ることが出来た。

彼も戸惑ったように俺を見ていた。


(やっぱり人間らしいよ、お前)



「俺、祈るよ。残りの、照葉の人生が、幸せで、愛で、満ちていますように…」



そう言って力強く抱き締めれば、照葉も腰に手を回した。

二人しばらく体温を感じ合う。

ずっとこうしていたかったけれど、俺にはもう、その時間はない。

ゆっくりと体を離すと、照葉が優しく笑ってくれた。



「さぁ。お行き、忍。君の魂は穢れなかった。真っ白な状態で生まれ変わる。縁があればまた出会えるかも」

「うん…きっと。きっとだぞ、照葉」



誓いの口づけを


頬に――…





「……私がいるの忘れてません?」



出歯亀しに来た訳じゃないんですけど、と呆れた口ぶりで溜息をつく死神は忍を連れて冥界へ消えて行った。






「………俺のために流される涙があるなんてな」



口づけを受けた頬に手で触れる。

そこは僅かながら忍が残ってるような気がした。




寿命が半分になった



でも








君がいない人生はなかなか退屈そうだよ――…









厚意のキス


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