もう限界なのかなあと思った。だらだらと血を流す腕を見ながら、俺はゆっくり紫煙を吸いこむ。もう限界。もう無理。もう足を止めたい。なのに世間様はそのどれも許してくれやしない。一度足を止めたら最後、僕たちみたいな人種は世間様に出禁を食らう。ああやだやだ、なんでこうなったんだろうね。どうしてこうなったんだろうね。いつからこうだったっけ。優しい人間だよ。そうだったかもね。平等な人だよ。そうだったかもね。お前に助けられた。はいダウト。そういうのいらねーんだわ。嘘つくなよ、もうやめてよ俺のライフはとっくにゼロなんだよ。なのになんでみんな俺の死体をそうやって蹴りつけるの。殴りつけるの。もう俺十分傷ついたじゃん。ほら見てよこの手、足、身体。傷だらけでしょ。俺はこれだけ傷ついたんだよ。だから許してよ。え? そのくらいじゃ許されないって? ですよねー。首に縄を通す段階にならないと誰も見てくれやしない。誰も同情しちゃくれない。誰も可哀想だなんて思ってくれない。手首を切ったくらいじゃ面倒くさいメンヘラだなあくらいにしか思われない。まあ実際そうなんですけどね、はい。じゃあ自殺したらどうなるかって、そりゃみんな今までのことが嘘みたいに泣き出すんだよ。なんで言ってくれなかったのって同情し始めるんだよ。被害者面しやがって。縋りつかせてくれなかったのはお前らじゃないか。助けてくれなかったのはお前らじゃないか。面倒くさいって、自分のことで手一杯だって言って、俺を放って置いたじゃないか。その結果がこれだよ。うそつきうそつきうそつきうそつき。みんなうそつきだ。つまり俺もうそつき。助けたいんだよ。嘘こけ殺すぞ。大丈夫? 訊くくらいなら手を差し伸べろよ。差し伸べてくださいよ。もう俺限界なんだよね何やってもうまくいかないし唯一あった才能らしきものも枯渇してきてるし。もう駄目なんだよはじめっから駄目だったかもしれないけどそれを誤魔化し誤魔化し今まで生きてきて、もうその誤魔化しも利かなくなってきたんだよ。なんだよ離婚って。俺が受けた虐待全て無駄だったんじゃん。なんで俺が殴られても蹴られても何も言わなかったかわかんねーのかよ。面倒だったからだよ。俺がやめてなんて言ったら本当にそれ、虐待になっちゃうじゃん。俺が我慢しとけば全部丸く収まると思ってたのにあんたらはたかだか一度二度の浮気で別れんのかよ。二十年間頑張って我慢してた俺の苦労を全部徒労にするのかよ。おいおいじゃあ俺なんで今まで我慢してたの? こんな腕やら足やら腹やら切ってさあ、なんのために俺普通の人の振りしてたの? なんのために社会の歯車の一員になろうと躍起になってたの? 全部無駄じゃん。全部、全部、全部。「死にたい」そう言えばみんなそれは駄目だと言う。言うだけ、言うだけなんですけどね。止めて、止めたあとの責任なんて誰も取っちゃくれない。無責任な科白だけ吐いてはいさよなら。ふざけんな。いいことあるよ。あるかもね。でも辛いことの方が圧倒的に多いじゃん。私だけじゃ足りないの? いやそもそも貴方から何かもらいましたっけ私。無責任な科白しか貰ってねえ。なのになんでお前が被害者面すんの? なんでみんな被害者面すんの? 俺を面倒くさい人間っていう分類にくくりつけて知らぬ存ぜぬ決め込んでんじゃん。なんであのとき死なせてくれなかったんだよ。俺は死にたかったよ。現在進行形で死にたい。昔は死にたくて死にたかった。でも今は辛いことから逃げたくて死にてえって思う。辛いことから苦しいことから面倒なことから逃げたくて死にてえって思ってる。でもみんな知らない振りするんでしょ。それが正しいんだろうね。間違ってるのは俺だけだよ。誤ってるのは俺だけだよ。でもみんな何かの拍子に俺みたいになるんだよ。たまたま運が良かったから俺みたいにならなかっただけなんだよ。運が良かったから殴られなかった蹴られなかった罵られなかった自傷しなかった自殺未遂をしなかった。なあ分かるかあんたらだってこうなってたはずなんだよ何かの拍子に。何かを切欠に。可能性としてはゼロじゃないんだよ。なのになんで俺を異端者扱いするんだよもうやなんだよそういうの。そういう嘘だとか偽りだとかまやかしで慰められるのは。なんでみんなそんなこと言うのかなあ。面倒になったら捨てるくせに。手に負えなくなったら離れるくせに。捨てるくらいなら拾うなよ。離れるくらいなら近づくなよ。なんでみんなそうなわけ? みんなっていうほど、俺も人数見てないけどさあ。ああやだやだ何がやだってそんな考えに行きついて生きついちゃう自分の脳みそだよ。俺より劣悪な環境にいながら人生を充実させてるやつだっていっぱいいるのに、なんで俺だけこうなんだろう。「死にたい」やっぱりそこに行きつく。でも怖いから無理。だから死にもしない傷こさえて満足させる。ばっかみてえ。実際馬鹿なんですけどね、はい。誰でもいいから助けてくんないかな。まあそんなやついたなら、俺はここまでになってなかったんだろうけど。だから結局、俺を助けてくれるのなんてカッターナイフと煙草くらいなんだよね。世知辛え。でもそれが俺の人生だ。俺の現実だ。紫煙混じりの溜息一つ。さてさて、それではみなさんご相伴くださいませ、今から俺は全てをリセットして明日から頑張ります。方法は簡単。カッターでざっくり肌を切ればいいのでございますよ。はい、せーの、

 
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