あったかいなあ。とぼんやり思った。雨に濡れたわけでもないのにがくがくと震える身体がひどく冷たいことは自分でもわかった。このまま抱き着いてたらこいつの体温まで奪ってしまいそうだ。もともと相手は低温症なのに。頭では分かっているのに指の先まで冷え切った身体はぴくりとも動いてくれない。困ったような、泣きそうな、それでいてふがいなさを含んだ声が上から降ってくる。そういえばけっこう身長差あったなあなんて頭の片隅で考えてると、大丈夫だよ、と言われた。何が大丈夫なんだろうと思う。「大丈夫、」大丈夫、大丈夫と相手は繰り返した。今にも泣きだしそうな声だ。昔はその声にイラついていたような気もする。無責任に大丈夫だと手を差し伸べるこいつにどうしようもなく腹が立った。今はただただその声音に安心する。そっと目をつぶればしがみ付く俺を壊れ物を扱うように抱きしめてくれた。あったかい。やっぱり、あったかい。安心する。覚えているはずのない胎盤を思い出しながら、左手の痛みと赤さを忘れようと思った。




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