昔、よくてんとう虫で遊んでいた。てんとう虫「と」遊んでいたのではなく、てんとう虫「で」遊んでいた。子供なんてそんなものだろう。虫も動物も玩具も何もかも、自分の知的好奇心を満たすためだけの道具でしかない。そんな残酷で無垢だった幼い頃、赤い背に黒い斑点を映したあの小さな丸い虫で、遊んだことがある。てんとう虫というのはその習性上、上へ上へと登っていく。だから掌に乗せれば天を差してる指のてっぺんを目指して黙々と歩き続けるし、頂点に辿り着くまでに上を差していた指を地面に向ければ逆の方向に進み始める。ただひたすらに空を目指して歩を進める様はいっそ健気で、そして見ていて何故だかとても満たされた。だから幼い頃の自分は、右往左往して、ひたすら天を目指しているのにいつまで経ってもてっぺんには行けないてんとう虫を、愉快な気持ちで見つめていた。何が楽しかったのか、当時の自分では分からなかった。でも今なら分かる。あれは、自分の掌の上で右往左往する生き物に対しての支配欲、そして自分が辞めない限り永遠に空に飛び立つことのできない愚かな虫に対しての、優越感だったのだ。
 今こいつに対して抱いている感情も、もしかしたらそういうことではないのだろうかとぼんやり思う。幸せを求めているのに自分が少し手を加えれば簡単にそれを見失い、そのくせ手を伸ばし続ける馬鹿な人。そしていつまで経っても自分を手放さない愚かしさに、やはり幼い頃の夏の日、日差しを浴びてきらめいていたあの赤い虫を、うっそりと思い出した。嗚咽を零す震えた肩に手を伸ばす。

 あの日遊んだてんとう虫は天に飛び立つこともできずに力尽き、幼い掌の上でころんと死んでしまった。





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