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元々、酒には強いって思ってた。
俺がそう言ったのを発端にしたクラブの飲み比べ。
面白そうなんて参加して来た相手の男は俺の友達の知り合いで。
やけに酒に強くいそいつと張り合って、テキーラ一気を繰り返すうちに。
急激に酔いが回って気分が悪くなってた俺はそいつに介抱されて。
そんな男の所に行ったら食われるよとか友達に言われたその後に。

本当に食べられたのが、一ヵ月前の話。




「なにこれ?」
「あぁ、今度クラブでするパーティーのチラシ」
「…いい、もうパーティーとか行かない。俺はお酒に弱いんですー」
「いや、飲むの前提?」

沢村(友達)のツッコミに、うぐ、と言葉に詰まる。

「あれはさ?別にお前が酒に弱いって訳じゃなくて相手が悪かったんだって(実際あいつ、殆ど何かで割ってたし)」
「でも口車に乗せられて悪酔いしたし、記憶飛ばすほど酔った」
「うん…」

哀れみを込めた眼差しが友達から向けられる。

「それは分かる。それが原因で、あいつへの苦手意識上昇したのも」
「別に俺は、」
「でもな?これって本当に大事な集まりなんだ。俺の誕生日だぜ?」
「……」

友達の言葉に、断る事とか出来ない。
あれ、でも、こないだの男…一応こいつの知り合いじゃなかった?

「大丈夫だろ。心配なら俺が、あいつがお前に飲ませないよう見張っとくし」
「…あいつも、来るの?」
「あ、うん」

しまったって顔の友達。
…抑えろ俺。
こいつだって心配してるんだし、せっかくの誕生日パーティーにこれ以上俺が駄々捏ねる訳にもいかない。

「分かった。ノンアルコールで頑張る」
「…うん」


何か言いたげな友達に、ブルーな気分の俺。
…これ以上言えないよな。
頑張れ、俺。





「なんか飲みもんでもいるか?」

爽やかな沢村。
その笑顔に釣られてカシスソーダを頼もうとした俺は禁酒生活に慣れてない。

「あの、ノンアルコールのものが良いんですけど、モナン?良く分かんないけど…はい…お願いします」

カクテルを作ってるお馴染みのバーテンさんに声をかけると、思った様に意外な顔をされた。

「ははっ、本当に酒止めたんだ」
「…悪い?」

ムッとして答えれば、んな怒んなってーと返す沢村。

「…もう良いよ。あっちで挨拶にでも行って来たら」
「でもなー…酒に目え付けない様に見張っとかねーと」
「大丈夫だよそんな心配しなくても」
「お、久し振りだなぁ沢村!」
「久し振りだな!」

もう酔っ払ってるのか、鼓膜が破れる程の大声で声をかけてきた男に、沢村は笑顔を浮かべて返している。
小さく溜息を付いて2人を見れば、久し振りだろう話に花を咲かせていた。
せっかくの誕生日。
主役がいつまでも俺に構ってるわけにも行かないだろう。

(…大丈夫かな)
確認して、そっとその場を離れた。


飲み物も無く、手持ち無沙汰で1人ウロウロしていると、

「お待たせしてすみません、飲み物をどうぞ」
「?…あぁ、どうも」

話し掛けて来たのは、さっき注文したのとは別のバーテンさん。
こんなバーテンさんいたっけ?と考えながらもグラスに目を向けると、綺麗な紫。

丁度喉が乾いた所だ。
一口だけ口に含めば、口当たりの良い甘さと炭酸が口に広がった。
文句の付け所がないくらい美味しい。

アルコールは仄かに柔らかくて、でもやっぱりカシスソーダよりカシオレの方が好きだなと、柔らかくなった表情で思いながら、浮かんだ考えにその表情は固まった。

「…あの、カシスソーダって言いませんでした?」
「そうですが?」
「……ノンアルコールの物をって先程別の方に頼みました」

この人知らなかったのか、そう考えて仕方ないと思いつつ、口調は憮然とした物になる。

「?ノンアルコール…アルコールは駄目なんですか?」
「ええ、ちょっと…」

歯切れが悪くなる言葉。
このバーテンは遠慮と言う言葉を知らないのだろうか。
頭の中で考えていると「けど…」と、そのボーイは続けた。

「きみはアルコールで乱れたくらいが…庇護欲をそそられてかわいいよ?」
「……」

あぁ、やっぱりさっきの奴の傍に居た方が良かったかも知れない。
それとも、今日が主役の友達の傍に付いて居れば良かっただろうか。
そうしたら苛つく事も、こんな奴に遭遇する事も無かったのに。

「それとももしかして、この間の事を気にしてる?」

黙れ変態。
心に浮かんだ思いをぐっと耐えて、出来る限りの愛想笑いを浮かべた。

「もう…からかうのは止めて下さい。章さん。
こないだはどうしようもない酒乱っぷりだったんでしょう?本当にその説は、看病していただいたらしくありがとうございました」

そう言うと、バーテン…もとい、こないだの送り狼、章(あきら)さんは少しだけ怪訝な顔をしていた。
何の真似か、こないだと変わった恰好をしてたから気付かなかった。

「…どうやら全然気にしていない様だね」
「嫌だ、気にしてますよ。散々に酔って介抱して貰うなんて…ツレに聞く限りじゃ酷いって。本当に、恥ずかしいです」

顔を伏せて困った様に笑う。
何か言おうとした彼は、けれどその動きを一瞬止めて「聞く限り…?」と、酷く疑問げに俺の言葉を復唱した。

「あぁ…えっと、恥ずかしながらその時の記憶、ちょっと飛んでるんですよね。
ツレと2人で飲んでた所から記憶が曖昧で…なのに、朝起きたら自分の部屋で寝てたんですよ。記憶も曖昧なのに、凄くないですか?」

同意を求める様に彼に苦笑を向ければ、何やら難しい顔をしている。
多分こいつの事、一度ヤって下になったネコが主導権を握られた事を忘れているなんて、プライドが許さないんだろう。

だけど生憎、俺はその事を忘れたい。
そんな俺に、奴は口を開いて、

「お前こんな所にいたのかよ」
「おぉ」
「…見つかっちゃったか」

ツレの声が被さって聞こえなかった呟き。
見ればツレがいつの間にかこちらに来て、狼を睨んでいた。

「お前な…愛想撒き散らすのは良いけどその後の事考えろ」

お前のせいでパーティに来た女が次から次へとオレにお前の事を聞いて来るんだとかなんたらかんたら。
つい笑いが零れた。

「ふふ…女性にモテない男の嫉妬?」
「お前なぁ…!」
「安心しろ。お前の魅力は俺に伝わってるよ。童顔貧弱なんて言われて落ち込んで、いじらしくて素敵ー」
「……」
「…あのさ、フォローって言葉知ってる?」
「知ってるよ、だから今してるじゃないか」

そう続ければ、ツレはがっくり肩を落とした。
やっぱりこいつが一番癒される可愛いなぁなんて考える俺に、最後に奴が呟いた言葉は聞こえなかったけど。


(忘れるなんて許さない)



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