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むかしむかし、俺は苛められていました。
健康的なだんごっぱな。
ぷるっぷるのたらこくちびる。
極め付けに鼻の横に大きな黒子。
ぶさいくでごめんねー!
そう言う訳でいじめられ、泣く泣く過ごした小学校〜高校生(大学何それ美味しいの?)。
悩みに悩んだ俺は、高校〜皆が大学行ってる期間にバイトした金と祖父母の援助で貯まった金で整形しました。
鼻はちっさく高く。唇は薄く。黒子は取れて…
イケメン3ヶ月クッキング。
元は俺だけど、なんかこう…イケメンになった。
言葉足りずでごめんねー!高卒だから!
今の俺のルックスなら、高校時代に俺を苛めてたリーダーにも勝てるかも…あ、やっぱり無理。
あっち天然男前。
俺なんちゃってイケメンもどき。
養殖は天然に勝てないのです。
「ちょっとー、レン聞いてるぅ?」
「は…え?」
声を掛けられて盛大に体が跳ねた。
やば、接客中だった。
目の前には派手な服に身を包んでほっぺたを膨らませている女。
「もう、酔うの早過ぎー。あそこの金髪のせいでしょっ」
「え?あー…ごめんね。シャンパンで調子乗ってた」
「もー、だからここにいてって言ったでしょー!」
めんどくさぁー!
足りない頭を総動員してなだめてたら内勤に呼ばれた。
「えー、もう行っちゃうのー?」
「ごめんね。埋め合わせは今度…」
「…じゃー今度同伴ね!」
ばちん!キラキラ肉食獣ウインクに俺はもうノックアウト…するわけねぇー!
高卒でも出来そうな仕事+この顔を活かせる仕事。
考えて繁華街を歩いていたらこのホストクラブのスカウトに会って。
…ごめんだけど女の子嫌い。
女の子とほにゃらら=子供=俺の天然顔受け継ぐ。
そんな最低とも言える方程式のせいで、女の子と付き合うとかは考えられない。
でも、興味本位で入店してから徐々に指名増えて来たら…もう。
お金っていいよね。で、続けちゃってる。
お酒好きだし。強いし。
あ、ちゃんと貯金もしてるけどね!
「なんですかー?」
「あ、レン。お前まだ鬼灯さんに会ったことなかったよな」
バックヤードに呼ばれてNo.2の翔さん(馬顔)に声を掛けると、「今調度VIPにいるし、挨拶して来い」と言われた。
面接の時はオーナーと俺をスカウトした翔さんだけだったけど…あれ?
「鬼灯さんて誰、ですか?」
「うちらの店のバックのヤクザ」
「え」
「お前最近売り上げ良いしさ。挨拶しとけってライトさんが言ってるし」
がんばれよと笑う翔さん…人事だと思ってと睨めば「俺も挨拶したからさ…怖かったけど気をつけろよ」と、励まし…
…そうですか。
あー、でもそれって、さっき店に入って来たスーツさんがやくざさんってこと?
よく顔見えなかったしなー。
ぼけーっと考えてると「さっさとしろ」とどやされた。
こっわー。
しゃーなし、若干の緊張を滲ませながらVIPルームの中へ。
「失礼しまー…」
「あ、鬼灯さん。こいつが言ってたレンっす」
俺の挨拶に、No.1のライトさんが被せてきた。
…この人が敬語使ってる所始めて見たんだけど…じゃなくて。
「あ、バイトのレンで……す…」
鬼灯さんに挨拶しようと試みて、顔を見た瞬間に俺の語尾は口すぼみになった。
だって…だって…!
「……」
「鬼灯さん鬼灯さん!なんか声掛けないとレンビビってるじゃないすかー」
短髪の黒髪はワックスで整えられて、鋭い眼光は昔から変わってない。
でも…その、顔は。
『ほら蓮野ー!不細工でごめんなさいって言ってみろよー』
『うっ…うぅ…』
『泣き顔もぶっさいくだなー』
『こんな奴見てるとムカつくよなー。なぁ、祐』
『……そうだな』
変わってない。
俺を苛めてたグループ。
そのリーダー。
無口で、でもどこか危ない雰囲気と整った顔から取り巻きが何人もいて。
俺が苛められるところを、止めもせずに黙って見ていたあいつ。
そう言えばあいつの家、ヤクザと繋がってるとかなんだとか…言われてた、っけ?
あれでもなんでほおずき?確か、岩名って苗字だった…よな?
頭の中が混乱しまくって。
全然、回らない。
「…レン」
「は、いっ」
返事するのもつっかえる。
でも、でも大丈夫。
俺は整形したから。
あの時の、不細工な苛められっこはどこにもいない。
「……」
けれど、何も言わずに見つめられるとあの時の恐怖が蘇って来て。
じわり、目に溜まった涙が零れ落ちる前にそいつが視線を逸らした。
「…頑張れ、よ」
「って、鬼灯さんそれだけっすか?」
ライトさんがあーだこーだフォローっぽいのを言ってくれてるけど、俺はどうでもいい。早くこの場を離れたい。
どうしようと考えて彼を見ていると、ふと視線を逸らされて…んん?
「鬼灯さん?なんか…耳赤くないっすか?」
「…!」
ギロリ、それはそれは怖い顔で睨まれてライトさんの笑顔が引き攣った。
え、でも、なに?
こいつがこんなになってる所初めて…いや、昔は目すら合わせなかったから知らなかっただけ?
…いやでもないない。
「レンって言う…のか」
「え、あ、はい」
なんて言うのかな…前は、怖くて目すら見れなかったのに。
今は、見れる。
「鬼灯さんって…かっこいいですね」
ぼっ、と音がしそうなほどに赤くなる彼の顔を見て一人ほくそ笑んだ。
なに、こいつ。ホモォだったわけ?きっもー。
悪いけど、両親からもらった大事な顔にメスを入れると決めた時から俺の良心はどこかに消えている。
だからさ、せいぜい俺と遊んでよ。ここはホストクラブなんだから。
お前が俺のことを好きになった時に、俺の正体を教えてやるよ。
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