フラールが一人でどこかに行ってしまい、しばらく不貞寝をしているとレンが目を覚ました。
さっきとは違い、朝の時のように落ち着いた様子で起き上がると、隣で倒れているアースを見た。
「もう斬り合いは勘弁な」
ウェンは苦笑いを浮かべながら呟いた。また斬り合いを始められたらたまらない。
「斬り合い? オレが、この人と?」
レンはそう言うときょとんとしてウェンを見た。
「覚えてないのかよ? アース見た瞬間人が変わったように……」
そう口にした瞬間はっとした。
人が変わったように。まさにそうだった。
あの時のレンは人が変わったようだった。
もしかして、それはレンが朝打ってた発作を抑える薬のせいだとしたら、フラールが薬という言葉を聞き納得していた理由もわかる。
「……なんか迷惑かけたみたいだな。ごめん」
動くとまだ痛むのだろうか、レンは顔をしかめている。
よく見ると顔色もよくないし、足元もおぼつかない。本当に大丈夫なのだろうか。
心配になり今にも倒れそうになレンに肩を貸す。
レンは真っ青な顔であたりをきょろきょろと見回していた。
「……フラールは?」
「どっか行ったよ。なんか相当キレてる感じだったし」
なんてことを言うと、レンが血相を変えた。
奥歯をぎりぎりと噛みしめる音が聞こえた。
もしかして失言だったのだろうか。
「……あいつ!!」
レンはフラールがどこに行ったのかわかるのだろうか、苛立たしげに舌打ちすると、動かない体を引きずるように歩き出した。
いまにもぶっ倒れそうなレンを一人にしておけるわけなく、ウェンもレンの後についていく。
アースは一人にしても死なないだろう。たぶん。
アースを放置することに少しだけ後ろめたさを感じながら進んでいく。
鬱蒼と茂る木々をかきわけて道を作り、前へと進んでいく最中レンは何も喋らなかった。
怒りのせいか、それとも具合が思わしくないのかどちらかはわからない。
すぐに道は開けた。
波の音が聞こえてくるから海岸の近くだろう。
ほっと息を吐いた瞬間、大きな声が飛んできた。その声の主は一発でわかった。フラールだ。
「だからレンちゃをモルモット扱いすんなっていっとるけん!!」
その言葉が聞こえた瞬間レンは歩く速度を速め、魁と言い争いをしているフラールに近づき、魁ではなくフラールの胸倉を掴んだ。
「なぁフラール、俺あんたに前にも言ったよな……俺のことで監督に口出しすんのはやめろって」
レンはフラールの胸倉をつかむ手に力を込める。
しかし立っているのもやっとなレンが力を込めてもフラールに軽くあしらわれてしまう。
「オレは好き好んで監督に協力してんだ!!」
レンは赤い目を見開いてフラールを振り払い叫ぶ。
そんなレンの襟元を今度は逆にフラールが乱暴に掴んだ。
「……いい加減にしいよレンちゃ!!」
今にもレンに殴りかかりそうなフラールをウェンは慌てて引き離した。
フラールは馬鹿力で抵抗してきたが、力ではウェンも負けていない。
「まぁまぁ2人共落ち着いてください」
フラールをなんとかレンから引き離すと、ニコニコと笑みを浮かべている魁が言う。
「フラール、あなたは先に海岸線へ向かって下さい。レンは少し様子を見てから海岸線へ。ウェンあなたはレンと一緒に向かってください」
フラールは舌打ちをすると魁に背を向けて歩き出した。
フラールの後ろ姿を見届けた後、魁は軽い会釈をして拠点に帰っていった。
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