ペルソナ5 最終話(コープ発生まで)
ベッドに寝っ転がったまま、スマホをいじっている来栖の上に我が物顔でのっかったモルガナは、興味津々でのぞき込む。


「やめろ、モルガナ。手元が狂う」

「ワガハイに隠れてなにしてるんだ、ジョーカー。ワガハイとジョーカーの仲だろ、みせろよ」


近所にすむ闇医者か、メイドの副業にいそしむ訳あり女担任か、それとも数日前に知り合ったばかりの飲んだくれ女記者か。年上好きかとモルガナがにやにやするくらいには交流が深まっている。誰が本命だとちゃちゃをいれても、今のところ来栖から明確な返事が返ってきたことはない。おいこら、と抵抗する来栖をくぐり抜け、スマホをのぞき込んだ黒猫は、知り合ってからちょくちょくターミナルの使い方や悪魔と遭遇したときについて質問するため、フロリダで会っているアキラ相手だと気づいて落胆する。


「なんだ、違うのか。また質問?」

「うん。アキラに、いや今回はツギハギさんに聞きたいことができたんだ」

「なんだ?」

「金城のバックについて」

「ああ、あのアルコール臭い記者の?気になるのか?」

「だって岩井さんを脅してきた男は津田、こっちは金城。どっちも大きなお金が動いてる。なにか関係あるのかと思って」

「なるほど、うまいことわかれば次のターゲットがすぐ見つかるな」


渋谷を牛耳る男の名前は、金城。今は雑誌のゴシップ記事を書く部署に飼い殺しにされている元社会部記者は、名前だけ教えてくれた。渋谷を活動の拠点とし、主に高校生を犯罪のターゲットに絞っているヤクザ。ただ、高校生が首を突っ込むにはバックがやばすぎるから手を引けとわざわざ教えてくれたのだ。すでに高額の金を請求された後だったので何の意味もないが。そして、危険なアルバイト先である武器商人の岩井は、元ヤクザであると告白をうけたばかりだ。津田という男とのやりとりに一見ふつうの高校生である来栖は重宝されている。こっちは大金が必要となり、海外の勢力との取引に失敗したという情報が入っている。まだ特定することはできないが、大きなお金の流れを感じてしまう。アキラは夜にシフトが入っており、返事は日中の方が多い。だが今日は休みのようで、速攻で返事が来た。返事はすぐするタイプのようだ。いつもの場所で、とだけ書いてある。


「今日はどこいくんだ、暁」

「フロリダで竜司たちと勉強してくる」

「ったく、教えなきゃよかったか?高校生がコーヒー一杯で粘るような店じゃねーんだ、俺の顔はつぶすんじゃねーぞ」


口ではそういいながら、どこかうれしそうな佐倉は、ついでに届け物を押しつけてくる。学生鞄と紙袋を抱えて、来栖はルブランをあとにした。喫茶店フロリダに到着すると、すでにアキラは一番奥の席で待っていた。ここのマスターはどうやら悪魔討伐隊御用達の店のようで、悪魔に関する依頼も請け負っている窓口だとようやく教えてもらえたのだ。怪盗団の話とも絡んでくるため、SNSよりはよっぽど安全なセキュリティである。アキラたちと対立しない限りは。マスターに届け物を渡して、来栖はアキラのところにきた。モルガナが鞄から這いだして大きくのびをする。動物がしゃべるのもあっさりと受け入れてしまうあたり、マスターもただ者ではないのだろう。メニューを注文すればわざわざモルガナ用にも用意してくれるので、モルガナはたいそうこの喫茶店が気に入っていた。


「待ってたよ、ジョーカー。そろそろくる頃だと思ってたんだ。陸の孤島だった金城のパレスにまでメメントスが広がったのは、僕らも確認してる。なにかするつもりなんだろう?なにが聞きたいんだい?」


うなずいた来栖はマスターにメニューを注文しながら、ここまでの経緯をかるく説明した。


「すごいな、想像以上だ。君の情報網には驚かされるよ」

「大したことじゃない」

「いうね。で、金城のバックになにがいるのか知りたいだっけ?それは次のターゲットという意味で?それとも警戒するため?」

「もちろんどちらも考えてる」

「ワガハイたちの活躍を認めさせるには、どんどんビッグを狙わねーといけないからな」

「そっか・・・・・・なるほど。わかった、ツギハギさんに聞いてみるよ、返事はそのあとでもいい?」

「ああ、はじめからそのつもりできてる。さすがにアキラだけで判断できることじゃないだろ」

「そういってくれると助かるよ、ジョーカー。なるべくいい返事が出せるようがんばるとして、だ。うーん」


アキラは少々思案する。


「ただ、この案件をツギハギさんに投げるには、ちょっと条件があるんだ」

「条件?」

「今のままだと、こちらも釣り合わないからいってみてくれ。俺たちはなにをしたらいい?」

「君たちがターゲットにするかもしれない人間は、僕たちの最終目標のうちの一人なんだ。このままだと僕たちは同じターゲットを狙うことになる。共同戦線といきたいところなんだけど、僕たちが敵対してる時点でわかるだろ?相手は悪魔使いなんだ。今の君たちの実力をはからせてほしい。そうすれば、ツギハギさんを説得しやすくなるし、仲間も協力してくれる」

「おお、そりゃ願ったり叶ったりだぜ!今んとこ、ゾンビコップみたいな雑魚しかいねーけど、今回は渋谷のあちこちで悪魔がでるようになっちまってるからな!」

「ああ、それなら、アキラも俺たちに同行してくれないか。そうすれば一番わかりやすいと思う」

「君たちはほんとこう、人をその気にさせるのが得意だね。ああ、そうなる気はしてたんだ。でも、それだけじゃだめだ。ターゲットになる人間はそこらへんの悪魔とは比較にならない神霊レベルの悪魔を使役する。その戦いに挑めるだけの実力があるかはからせてくれ」

「アキラの仕事に参加しろってことか?」

「もちろん、いきなりはじめからとはいわないよ。さいわい、シャドウと同じ姿をした悪魔は、同等の価値観で存在していることがわかっている。つまり、雑魚は雑魚ってことだ。悪魔はそもそも成長しない種族なんだ。変化しない、成長しない、ただそこにある自然現象から崇拝は始まったからね。だから、君たちがメメントスでみたことあるシャドウを教えてくれないか。それにあわせた任務をシフトに入れるから」

「わかった。でも今はそれどころじゃない。怪盗団は全会一致が原則なんだ。いずれ返事する。今は保留でいいか?」


もちろん、とアキラはうなずいた。これはお互い様である。それに怪盗団に同行することが決定したのだ、現状を把握する必要があるのはアキラの方である。


さっそく来栖が怪盗団メンバーにアキラの臨時加入を知らせると、TLがにわかに活気づく。リーダーにより事情説明がネット上で行われている間、モルガナが代わりに説明をはじめた。


渋谷を牛耳るヤクザについて、生徒会長である新島真が躍起になって調べて回る理由がようやく判明した。実にあわただしい数日間だった。来栖のTLを見せられ、一人ついていけていない女の子らしきアイコンを見つけて、アキラは苦笑いした。姉が検察官であること、生徒会長であることを名目に勝手に名義を使われて、ヤクザの被害を調べる張り紙をされたこと。校長室に呼ばれ、あきらかに生徒が行うべき領域を越えた仕事を押しつけられ、仕事が増え、生徒会の業務に支障を来すレベルになっていること。しかも生徒会の一人がそのヤクザの被害者であり、張り紙を信用して相談にきたこと。被害者を特定して話をまとめて職員室に提出したら、その案件自体が実は校長から直々に新島真に申しつけられたことであり、事後承認となった職員室からは不満しか聞こえなかったこと。匿名であるべき被害者について、翌日には情報が拡散状態であり、明らかに職員、もしくは校長から流出していて、状況的に彼女がすべて個人で解決しなければならない状況ができあがってしまっていること。姉を通して話を持って行きたいことは真自身わかっているが、両親が他界し、年齢差や男性社会に揉まれて生きている姉とまだ学生の自分ではすれ違いが出来始めており、相談しにくい状況になっていること。なんとかしなきゃ、が先行し、追いつめられた彼女は怪盗団に思い至る。ただ、校長から怪盗団の正体を突き止めるよう依頼され、敵対的な行動ばかりしていた彼女が相談しても信用されるわけがない。なら、と脅すような行動をとってしまった。


怪盗団が情報収集に当たる様子を追いかけ、ヤクザの活動範囲を特定し、その頭の写真と実際の犯罪の現行を押さえようとしたのだ。警察ですら足が着かないため手をこまねいている状況である。ただの女子生徒である彼女ができるわけがない。結果として、助けにいった怪盗団と彼女はスナックにいるところを、あらぬ誤解を生みかねない状況で撮影され、それをネタに脅されるというとんでもない事態になっている。期限は三週間。空中に浮遊する銀行は、むちゃくちゃな行動をとった彼女が上客となったことで問戸が開かれ、怪盗団も目を付けられたことで侵入が可能になるという副産物を生んだので結果オーライだ。パレスの攻略には慎重さが求められる。新人の真をカバーする上で、悪魔の出現のたびに出動をお願いしている悪魔討伐隊であるアキラが入ってくれるのはとてもありがたい。


「これは責任重大だな。わかった、よろしく頼むよ、ジョーカー?」


アキラは手をさしのべる。来栖はしっかりと握手を交わした。


「ところでアキラ、悪魔はどうする?」

「そうだな・・・悪魔にとってシャドウが徘徊するメメントスやパレスは格好の餌場だ。僕のマグネタイトで補える上に、好き勝手行動しない、最小限の影響しか与えないレベルの悪魔だけ連れて行くことにするよ。もちろん、僕の一番の相棒だ。信頼してくれていい」

「話が早くて助かるぜ。ちなみにどいつなんだ?」

「魔獣ミノタウロス、彼にするよ。僕が一番最初に仲魔にした悪魔だ」

「えええ!?あの偉そうな牛野郎呼ぶのかよ!あの女の人はだめなのか?」

「アエーシュマはだめだ、パレスは個人の精神世界だろ。影響がでかすぎる」

「むうう、そういうことなら仕方ねえ。たーだーし!怪盗団の中では、ワガハイが先輩で、アキラは後輩なんだ、そこんとこ、よーくあの牛野郎にいっといてくれ!!」

「え、あ、う、うん、わかったけど・・・ジョーカー、僕のミノタウロスがなにかした?」

「ああうん、まあ」

「ほんとに?ああもう、なにしたんだよ、ミノタウロス」


アキラはためいきをついた。


「ミノタウロスは僕が初めて仲魔にした悪魔だから、いつまでたっても僕を12歳だと思いこんでる節があるんだ。ごめんよ、モルガナ」

「ま、まあ、アキラがそんなにいうなら許してやらねえこともねえけど・・・・・・って、え、12?」

「12って、6年も前?そんな小さい頃から?」

「まあね、悪魔使いにはよくあることさ」


アキラはなんでもないように笑う。


「それより、こちらの世界でも金城のパレスの影響で、近づこうとする悪魔が活発化してる。はやいこと怪盗団の仕事をやらなきゃいけないね。新入りとして、精一杯つとめさせてもらうよ。今後ともよろしく」



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