ペルソナ5 第4話
20xx年、かつて日本が資源のない国だったといったら、笑われる時代になっている。今や日本海溝に繋いだパイプラインからアジアに向けて電気を輸出するほどのエネルギー強国にのし上がったのには、理由があった。

航空自衛官を4年間つとめ、政治家に転向したその男は、43歳にして防衛大臣に任命される。海外の軍事情報をはじめとする各種情報を扱う日本最大の情報機関を通して、世界の動向に不信感を抱いていた彼は、対等に渡り合う手段として新しいエネルギーをシュバルツバースに求めた。かつて世界の危機であった存在も縮小、消滅の実績がある今は違う。制御できることが証明された今、それを利用することができれば、きっと日本は途方もない技術を手に入れる。



某国と繋がりを深める中でその機密情報を入手し、内閣府の了承も得て防衛省地下で始まった研究は思わぬ方向に向かって転がり出す。シュバルツバースの研究に外郭団体である量子物理学研究所をはじめとした様々なスタッフ、施設を投入した結果、彼はついに究極のエネルギーを手にする。東京すべての電力を補うだけでなく、海外に輸出することも可能な夢のエネルギー。無限発電炉ヤマトはこうして生まれた。


そこに至るまでの副産物で、瞬間転送装置、通称ターミナルを開発にも成功する。物質を電子情報に置き換え、瞬間的に移動させるシステムは、間違いなくこれからの日本の武器になる。その確信は現実となり、ターミナル技術は今の日本にとってなくてはならないものとなった。


ここまでなら現役高校生の来栖たちは、社会や公民の時代に習ってきたことである。アキラはそれとなんの関係があるのだといいたげな怪盗団にいう。


「君たちは学校でこう習ったよね?高速増殖炉もんじゅに失敗した時点で、核を再利用は無理だと言われたのにたった××年で同じ技術を成功させた。奇跡だ。実際は違うんだ。タマガミさんが求めたシュバルツバースは、簡単に言えば現実世界を飲み込むレベルで成長しつづけるメメントスみたいなもんだった、といえばわかるかな?」

『おいまてこら、怖いこというなよ。まさかタマガミってやつは人工的にメメントス作ろうとしやがったのか!?』

「そのまさかだ。シュバルツバースはもう解析されてる。制御可能な自然現象だ。ただちょっと精神世界と人間世界に穴を開けてエネルギーを拝借してるだけ」

「メメントスってみんなの意識でできてるんじゃないの?」

「それがエネルギーに変換できる技術を教えてくれる奴らがいたのさ。精神世界の住人だ。そいつらはそのエネルギーでできてる。それが悪魔、僕たちの恐るべき隣人だ」


ここから先は養父からのまた聞きになるとアキラは注釈をいれる。


しかし、待望のヤマトの試運転の際、突然ヤマトが虚数というあり得ない数値を叩き出し、同じ原理で連結して動いているターミナルも暴走、ありえない座標とありえない移転ルートを開拓、その先にいたのは人知を越えた存在、悪魔だった。



彼、いや彼女は、無限発電炉ヤマト、ターミナルが彼らの住む魔界のエネルギーを無断で借用することで実現していることをつげ、ヤマトを使う限り魔界と地上はつながったままだと警告にきた。その言葉を証明するために人知を越えた力を見せつけた彼女に、ヤマトの試運転に立ち会っていた彼は会談を持ちかける。そこで行われた秘密会談の内容は不明だが、彼はヤマトの計画の続行を宣言。このままでは地上に悪魔があふれる。


危険な研究に関わっているその事実に気づいたあるスタッフは危機感を持ち、水面下でヤマトにハッキングを試みたり、いずれ地上にわいてくる悪魔に対抗する手段をターミナルの技術を使用することで構築、自身が運営する掲示板にばらまくなどの工作にでるが行方不明になってしまう。



彼、タマガミが悪魔との会談で得たたくさんの情報の中で、ヤマト計画の続行を決意させた理由は不明だ。ただシュバルツバースの技術を手にした大国はすでに悪魔と接触していることは確定している。神話上で語られる存在はすでに秘密裏に世界を牛耳っている。悪魔の手に堕ちているという事実を彼は知ってしまった。海外をはじめとする様々な情報を扱う日本最大の情報機関を有する大臣だった彼は、その裏付けをとるのが難しくはなかった。まして、彼にシュバルツバースの極秘情報を渡してきたのが悪魔に憑依されたA国の外交筋だったのだから。すでにA国は光の勢力に上層部を完全に掌握されていた。光の勢力は狡猾だった。世界各地の民族が信仰する多数の神々の信仰を取り込み、あるいは排斥してきた歴史がある。科学と秩序を把握した光の勢力は文明という名の下に多数の信仰を絶滅させ、その地域の神々を悪魔に貶めた。古くから存在する神々はそのあり方を奪われ、魔界においてもその貶められた姿を強要された。

女は問う。

「アナタはどうなの?それでいいと本気で思っていて?アナタがいくらこの事実を高らかに歌い上げようが、我が身を捧げて訴えようが、アナタが救いたい人たちはきっとその志を理解してくれない。誰も。それでもアナタが救いたいと思うほど、価値があるのかしら?その人たちは」

「くだらない。私たちの運命は私たちが決めるべきだ。たとえ私が私自身を生け贄にささげて、その志を訴えて理解されず排斥され、憂国の礎になって眠ることになっても後悔など誰がする。そういった自由意志を守るために私はここにいるのだ」

「すべて無駄だとしても?アナタの願いがすべて無駄に終わり、アナタが愛するこれからを作る若者がだれも立ち上がらなかったとしても?それではあまりにもアナタが報われないわ。死すら安らぎにはなれやしない」

「そうだな。だがどうした。杞憂は一番嫌いなんだ。二度と口にするな」


タマガミの言葉に、女は妖艶な笑みを浮かべた。


「いいだろう。この魂、貴様にくれてやる。そこかわり力を貸せ」

「そういってくれると思っていたわ。これでも男を見る目はあるのよ」

「くだらんことを言うな。さっさと名乗れ」

「リリス、といったら?」

「アダムより古い女、いや、神に逆らって闇に落とされた女か。×度も世界が滅んでいるならば、一度くらい悪魔の力をもってしてもあがいてやるのが人と言うものだ。見せてやろう、人間の可能性を」

「アナタを一人にはしないわ、アナタが裏切らない間はね。それじゃ、今日からアタシのことはユリコと呼びなさい。こちらの方が慣れているの」


リリスからもたらされた情報は、有益なものばかりだった。ある研究者の裏切りにより、ネットにばらまかれた悪魔召還プログラムと解析プログラム。あまりにも高性能なOS。シュバルツバース調査隊のデモニカスーツに搭載されているそれを改良、さらに手を加えている。人ならざる者の入れ知恵があったか、その研究者が人ならざる者かは調べようがなかった。これを光の勢力との対抗策に使えないか。既存のデモニカスーツをさらにブラッシュアップし民間に払い下げることも検討したが、猶予はない。光の勢力との全面戦争を前にこちらはあまりに手数が少ない。あちらは核保有国をいくつも掌握しすぎている。ここまで考えてタマガミは息を吐いた。鬼と畜生と罵られても走らなければならない理由ができてしまった。今のタマガミに必要なのはネットにばらまかれた悪魔召還プログラムが使える人間だ。どんな手を使ってでも集めなければ。ここまで考えて、防衛大臣として自分にできることを考える。ここは法治国家だ。単独でできることはたかがしれている。さいわい今はまだ内閣府による信任がある。あらゆる手段を持ってでも動かなければ、止まったら終わりだ。



しかし、シュバルツバースの出現により各地の神々の封印は揺らぎ、統一された思想はゆらぎ、彼らが考える秩序と平和は破綻をきたし、混乱しつつあった。


堕とされた神々はレイライン、東洋でいうところの竜脈から吹き出す魔力で生き抜いてきたが、シュバルツバースの影響による霊地の復活により力を取り戻しつつある。


人工的なシュバルツバースは人間世界と魔界をつなぐ入り口を作ってしまう。無限のエネルギーと引き換えに悪魔が湧き出す源泉と化す。


それは人間世界で存在するために、マグネタイトの供給を確保する戦いでもあった。本来、実体を持たない彼らは水のようなものだ。しかし、物質世界である現実世界に存在し続けるには、器を用意しその中に精神体である己をそそぎ込む必要がある。その器の材料となるのがマグネタイトと呼ばれるエネルギーであり、精神体である彼らそのものでもある。このマグネタイトを作ることができるのは人間、あるいはそれに近しい生命体、そして悪魔だけである。魔界にいれば、いつでもどこでも供給されるマグネタイトである。彼らは様々な感情の発露によって発生するこのエネルギーで自在な存在となれる。しかし、物質世界にいるためには器を維持し続け、しかも枯渇しないように供給もとを確保しなければならない。マグネタイトの供給方法としては、人々の信仰を集める、他の生命体に憑依する、大量の生体エネルギーを器に変換し続ける、という方法があげられるが、彼らにとって効率的なのは神話としてよく知られた姿を形づくることだろう。もっとも、それは人々の信仰、思想、様々な無意識から形成されるもの、伝承を身にまとうことを強制される。魔界にいたころとは全く異なるあり方だ。

しかし、それを拒絶することは、多くの派生神からマグネタイトやあらゆる情報を伝播される特権を備えた主神クラスの悪魔であっても死を意味する。肉体を持たない悪魔が実体化を維持するためには、マグネタイトを消費しつづける。マグネタイトの枯渇は肉体の崩壊、スライム化、そしてマグネタイトを求めて暴走する本能の固まりと化し、そして消滅を意味する。A国を背景とした古き神々と光の勢力の戦争は、世界各地の霊地の争奪戦となった。追われた者達がマグネタイトの供給地を求めて、その首謀者たる勢力が及ばない地である東京に集結するのは当然の流れだった。


それが三年前までの話。神々と東京の人々、どちらが勝ったのか、それは来栖たちが一番知っている。


「僕はヤマトから湧いてくる悪魔を討伐するのが主な仕事なんだ。今はメメントスに近づかないようにね」

「待ってくれ、アキラ。そのマグネタイトはメメントスそのものじゃないか」

「その通り。悪魔が魅せられて寄ってくるんだ。認知を歪められて在り方を失うとしても耐え難いだろうね」

「え、じゃあ、悪魔がシャドウと似てるのは?」

「シャドウは悪魔じゃないよ。悪魔は物質世界と精神世界の間にある異空間にいる精神体の総称だ。神様や天使みたいな想像上のものが本当にいると考えてくれたらいい。ただ、想像したのは人間だから、人間がみんな死んだら死ぬ。ほんとにいると思ってくれないと生きられないからね」

竜司は疑問符が乱舞している。杏はなんとなく理解することにしたようで、若干歯切れは悪いがうなずいている。来栖は冷静に思考したまま先を促した。


「人がいろんな状況に応じてみせる一面がペルソナだとしたら、シャドウは認めてもらえなかった一面みたいなものだよ。どっちもメメントスでは認めてもらえなかった一面が固まりになってあたりを漂う。共通意識はだいたいみんなが知ってるものに近いからという理由で結びつけていく。みんなが知ってるヒーローやファンタジーにでてくるモンスターみたいなものになっていく。天使や神様も似たような発想で生まれたから、姿が似てるのは仕方ないよ。でも、悪魔にとってはそうじゃない。マグネタイトの塊だ、お腹空いてるときにご馳走があったら誰だって飛びつくだろ。そんなことされたら廃人化の大量発生だ。だから僕はここにいるんだ」


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