連載夢主でズァーク夢C

「精霊?あー、うん、まあ。知ってるよ」

「え?」


衝撃だった。


「赤馬、赤馬零王からなにか聞かされたのか?」

「それもあるけど、デュエルモンスターズには昔から精霊はいたって知ってるし。ズァークのいう精霊はどっちかってーと、自我に目覚めたAIって意味だからちょっと違うかもしれねーけど、誤差の範囲だろ。おれ達とは違う存在」

「その口ぶりだと信じてるんだよな?見えるのか?」

「見えはしねーよ、ソリッドヴィジョンと区別つかねえもん」

「じゃあ、声は?」

「聞こえるわけねーだろ、俺は特別な存在じゃない」

「でも知ってる」

「ああ、知ってる」

「嫌いなのか?それとも何かあったから、あんなことを?」

「いや、全然。むしろ興味ねえよ、おれには関係ねーからな」

「本気で言ってるのか?」

「そうだよ、もちろん。本気じゃなかったら、誰がするよ、あんなこと。でもおれにはどうしても譲れねえことがある。だからさ、いつかお前とは戦う気がしてたんだぜ、ズァーク」


なぜ、が先に来る。なぜ城前はこうも堂々と敵対宣言をしているのだろう、傍らにはその発言を聞いて動揺しているモンスターがいるというのに。存在が知覚できないからこそ残酷な仕打ちができるデュエリストは数多く見てきたが。はじめからその存在を知っていながら、自分を慕う存在を認識しておきながら、こうも堂々と口に出せる人間をズァークは初めて見た。赤馬零王の勢力の人間として精霊の存在を認めず、排除する方向に動く、と宣戦布告をしているというのに、ここまで生き生きしているのか、ズァークにはわからない。ここまでいい笑顔を浮かべるのは、ズァークとのデュエルの前には些細なこと、むしろ余興とでも考えているのだろか。ズァークにとっての本題が城前にとってはどうでもいいことなのはその態度でよくわかる。

動揺してしまったズァークは、頭が回らない。


「デュエルが終わるたびに精霊を初期化なんて、どうしてそんなこと」

「レオコーポレーションとの契約なんだよ。精霊が存在を維持するのに必要なデュエルエネルギーとソリッドヴィジョンの関係についてのな」

「実験に差し出してたのか」

「おれにとっては大事な実験なんだよ」

「まさか精霊達をエネルギーに!?」

「そのまさかだよ。だいたい、最近のソリッドヴィジョンの不具合の原因は精霊が増えすぎたせいだろうが」

「だからってそんなことする必要ないだろ!」

「自覚はあんのか、安心した。本来計算されたはずの質量以上の実体が出現することの危険性はちゃんと認識してんだな、ズァーク。エネルギーは循環しなきゃいけない。それを管理して初めて、アクションデュエルは安全でいられるんだ。投影以上の実体や質量が出現したらどうなるか、想像するまでもねえだろ。今はその瀬戸際にまできてんだよ、わかれ。もし、レオコーポレーションのシステムを上回る質量を持った精霊が出現してみろ。お前は制御できんのか。ブラックホールなんて生やさしいもんじゃない、この街がどんだけこの技術で成り立ってるとおもってんだよ。そいつを全部食い散らかして実体化したらどうなると思ってんだ」


これ自体、城前が現れてはじめて判明した事実なのである。この街でデュエルモンスターズを行うと言うことは、レオ・コーポレーションのシステムを使うということを意味する。プロを目指すなら、それこそ幼い頃から結果を出すために大会に出場するだろう。アクションデュエルにしろ、ライディングデュエルにしろ、スタンディングデュエルにしろ、すべてのソリッドヴィジョンはレオ・コーポレーション製一択だ。デュエルモンスターズにだけ発生する謎の質量の増加を検証するにしても、研究所がサンプルとするのは大会常連など名の知られた者がほとんど。彼らは幾度も同じデッキを使い込み、精霊を成長させている状態であり、それがデフォルトなのだ。例外は存在しないといっていい。初心者を対象とするにしても、物心ついた頃からデュエルに慣れ親しむこの街の子供達である。デュエルを生まれてはじめてする子供がいて初めて検証が成り立つのだ。参考程度のデータはとれても、今まで一度もそのカードをデュエルディスクに通したことがないか、なんてわからない。そういう意味では、今まで一度もレオ・コーポレーションのソリッドヴィジョンをつかったことがなかった城前がデュエルをして初めて、彼らは精霊が出現する瞬間を物理的に把握することができたといってよかった。それが魂の重さだと。


「そこまでして何を望んでるんだ」

「元の世界に帰るためだよ」

「もと?」

「おれはこの世界の人間じゃない。元の世界に帰るには、次元転移装置がいる。それにはエネルギーが必要なんだ、膨大な」

「!?」

「精霊はしんじるのに、異世界人はしんじねえってか?」

「元の世界にはいないからって、精霊をそんなことに使うのか!?」

「だからいってるだろ、ズァーク。おれは精霊に興味なんてないんだよ」


ここまで明言されては、さすがのズァークも気づく。

こいつは敵だ。まごう事なき敵だ。ズァークは基本的に相容れない人間でも存在を許容するくらいにはプロを続けてきた。でもこいつだけは我慢ならない。城前に賛同して研究をしている赤馬たちもなおのこと許すことなどできない。


「さあ、デュエルと行こうぜ、ズァーク。これが終わったらいいこと教えてやるよ」

「もったいぶらずに今すぐ教えろ!何を企んでるんだ!」


選手控え室に呼び出し音が鳴り響く。くってかかろうとしたズァークだったが、城前は軽くいなして出て行ってまう。くそ、と壁を殴る音がやけに大きく響いた気がした。










デュエルディスクが城前の先攻を知らせる。


「先攻はもらうぜ!おれは手札から永続魔法《グレイドル・インパクト》の効果をを発動!そして、モンスターを裏側守備表示にして、伏せカードを1枚置く」


効果音と共に裏側のカードが伏せられていくモーションのあと、虚空にソリッドヴィジョンが溶けていく。


「エンドフェイズに《グレイドル・インパクト》の効果でデッキから《グレイドル》カードを1枚手札に加えるぜ。おれのターンは終了だ」


先走る感情をドローに込める。精霊たちがざわめいているのを感じる。初めて立ちはだかる敵に気持ちばかりが先走る。ズァークは警戒しつつも、ドローを宣言した。


「俺は永続魔法《星霜のペンデュラムグラフ》の効果を発動!このカードが魔法・罠ゾーンに存在する限り、自分フィールドの魔法使い族モンスターを相手は魔法カードの効果の対象にすることはできない!そして、俺はスケール4《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》をライト・ペンデュラムゾーンに、スケール8《虹彩の魔術師》をレフト・ペンデュラムゾーンにセッティング!ペンデュラム召喚!さあ来い、俺のモンスターたち!!俺は《賤竜の魔術師》と《覇王眷竜ダークヴルム》を攻撃表示で特殊召喚!!《覇王眷竜ダークヴルム》のモンスター効果を発動だ!こいつは召喚、特殊召喚に成功した場合、デッキから《覇王門》ペンデュラムモンスター1枚を手札に加えることができる!」


ズァークのデッキから鮮やかな光彩を伴ったカードが飛んでくる。それを手にしたズァークは、さらに展開を進める。


「バトルだ、城前!俺は《賤竜の魔術師》でその伏せられたモンスターに攻撃だ!」


城前は笑った。


「こいつは《グレイドル・イーグル》!!」


守備力はたったの500、2100も攻撃力がある《賤竜の魔術師》の敵ではない。だが、そのモンスターが開示された瞬間、城前のデュエルをたくさん閲覧してきたズァークは悪い手だったと悟る。どのみち攻撃しなければ始まらないのだ、どうしようもなかった。


「こいつは戦闘またはモンスターの効果で破壊されて墓地に送られた場合、相手フィールドの表側表示のモンスターの装備カードとなる!そして、そのモンスターのコントロールを得ることができる!」


城前の宣言と同時に、液状のスライムに取り込まれて擬態の餌になっていた鳥型のモンスターが、新たな犠牲者を求めて襲い掛かる。あっという間に取り込まれ、宇宙から飛来したモンスターの擬態の核となってしまった魔術師はズァークから離れていく。ズァークは苦い顔をする。精霊を奪われた苦痛と、その能力を発揮した《グレイドル・イーグル》の幼い子供が親を慕うような無邪気さが胸に刺さっていけない。コントロール奪取が得意なテーマカテゴリはその性質上ヘイトを集めやすい。だが、使い手がその戦術を好み、自信満々で駆使するとしたら、それはきっと本望なのだ。使い手に恵まれた《グレイドル》はとても生き生きしている。たとえこのデュエル大会が終わり、デュエルエネルギーの無に還る運命だとしても、きっとまた城前を慕うのだ。何度も何度も繰り返されてきた悲劇だ。


「どうする、取り返すか?大事な仲間なんだろ?」

「…………っ!俺は《星霧のペンデュラムグラフ》の効果により《魔術師》カードを手札に加えるっ!」


笑いかけてくる城前に、ズァークはにらむだけだ。《覇王眷竜ダークヴルム》の攻撃力では《賤竜の魔術師》の攻撃力は越えられない。


「俺はこれでバトルを終了だ、そして、エンドフェイズに《オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン》のペンデュラム効果を発動!こいつを破壊して、デッキから攻撃力1500以下のペンデュラムモンスターをサーチだ。ターンエンド」


どうくる、と前を見据えるズァークに、城前はどこか楽しそうだ。デュエルでこんな生き生きとしているし、城前の指示でデュエルを行うモンスターたちはとても楽しそうなのに、城前が精霊にたいしてやっていることを思うと愕然としてしまう。ドローにより手札が増えた城前は《N・グランモール》を召喚、バトルフィズに移行した。


「俺は《賤竜の魔術師》で《覇王眷竜ダークヴルム》を攻撃するぜ、いけ、バトル!」


《グレイドル・イーグル》に洗脳されたのか、自我を上書きされたのか、主導権を握られたのか、苦悶と謝罪の言葉が聞こえてこないのが唯一の救いだった。仲間から攻撃される苦痛を味わうのはドラゴンだけである。断末魔が響き渡った。そして余波で斬撃をくらったズァークは後ろに吹き飛ばされそうになる。かろうじて持ちこたえるが、やはり気にくわない展開だ。


「《グレイドル・インパクト》の効果でデッキから《グレイドル》カードをサーチ!俺はカードを2枚伏せてターンエンドだ」


ズァークは怒りのボルテージが上がっていくのを感じる。


「俺のターン、ドロー!」


呼応するように呼び込まれるカードは強力な効果を連れてきた。


「俺はスケール1《紫毒の魔術師》をライト・ペンデュラムゾーンにセッティング!さあ、もう一度現れろ、俺のモンスターたち!!ペンデュラム召喚!」

「通すわけにはいかねえなあ!カウンター罠発動《神の通告》!!ライフポイントを1500支払い、モンスターの特殊召喚を無効にして、破壊する!さあ、墓地に行ってもらおうか!!」

「なっ!?」


わかってはいたはずなのに。ズァークは唇をかむ。《壊獣》も《グレイドル》も大量特殊召喚といった物量で押し切られることを非常に苦手とするテーマだ。その弱点を克服するためにいろんな混合デッキを組んでいる城前が対策を講じないわけがないではないか!ここはバックを早急にはがすべきだったのだ。冷静さを欠いているのは間違いなくズァークである。おちつけ、と自分に言い聞かせ、ズァークは必至で挽回を考える。


「まだだ!俺は墓地にある 《紫毒の魔術師》の効果を発動!効果で破壊されたこいつはフィールドの表側表示のカードを1枚破壊することができる!《グレイドル・イーグル》を破壊だ!俺のモンスターを返してもらおうか!!」


《賤竜の魔術師》は呪縛から解放され、ズァークのエクストラデッキに帰還する。うれしそうな声、そしてごめんなさいの声、ありがとうの声、そのひとつひとつがズァークを冷静にしていく。


「《黒牙の魔術師》のモンスター効果を発動!このカードが効果で破壊された場合、自分の墓地にある《魔法使い族》《闇属性モンスター》1体をフィールドに特殊召喚することができる!甦れ、《黒牙の魔術師》!!」

「こいよ、ズァーク」

「…………っ、いや、バトルは行わない!俺はターンを終了だ」


城前はちぇ、とぼやくが自分のターンになったことを確認すると、ドローを行う。《N・グランモール》は戦闘を行わずに互いに手札に戻る効果である。複数モンスターを並べられるなら攻撃できるが今はできない。


「じゃあ、お前のモンスターには生贄になってもらおうか!」

「なっ」

「俺はズァークの《黒牙の魔術師》をリリース!《海亀壊獣ガメシエル》をズァークのフィールドに攻撃表示で特殊召喚!」

「くっ……俺は《星霜のペンデュラムグラフ》の効果で《魔術師》カードを手札に加える」

「そんなことしても無駄だぜ、魔法カード《妨げられた壊獣の眠り》の効果を発動だ!フィールドのモンスターをすべて破壊し、デッキからズァークのフィールドに新たな《海亀壊獣ガメシエル》を攻撃表示で特殊召喚!そして、おれは《壊星壊獣ジズキエル》を攻撃表示で特殊召喚だ!さらに《グレイドル・コブラ》を召喚、そして罠発動《グレイドル・スプリット》!《グレイドル・コブラ》をリリースし、デッキから《グレイドル・イーグル》と《グレイドル・スライム》を守備表示で特殊召喚する!墓地に行った《グレイドル・コブラ》のモンスター効果により、《海亀壊獣ガメシエル》をこちらのフィールドに移すぜ!そして制約により墓地に送られる!そして、《グレイドル・イーグル》と《グレイドル・スライム》この2体でシンクロ召喚!現れろ、《グレイドルドラゴン》!!モンスター効果を発動だ、素材になった水属性のモンスターは2体、よってズァーク、お前のフィールドのカードを2枚破壊する!まずは1枚目!」

「くそっ……終わってたまるか!俺は手札から1枚目の破壊にチェーンして手札から《クロノグラム・マジシャン》を特殊召喚し、モンスター効果で手札から《紫毒の魔術師》を守備表示で特殊召喚する!さらに《虹彩の魔術師》のペンデュラム効果を発動だ!デッキから《ペンデュラムグラフ》カードをサーチする!」

「だが2枚目は破壊させてもらうぜ!対象は《紫毒の魔術師》!これで終わりだよ、ズァーク。楽しかったぜ、お前とのデュエル。さあいけ、《壊星壊獣ジズキエル》!そして《グレイドルドラゴン》!ズァークにとどめを刺せ!!」




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