ファンゴルンの森A
「悪い、ちょっと休憩する」

「あ、はい、わかりました」


トレーを回収してゴミの分別をしていた和波は、あわててトレーラーの近くに向かう。そしてエプロンに入っているメモ帳とボールペンを取り出した。お客さんが来ている間、注文を聞かなければならない。さいわいそういう時間を見計らっているのだろう、客はまばらでこちらに寄りつく気配はない。

草薙は今にも骨が折れそうな音を鳴らしながら、大きくのびをした。エプロンを近くの椅子にひっか蹴ると、そのまま近くの鞄からがさごそ漁り始める。タバコとライター、そして携帯灰皿をポケットにいれていく。この公園では喫煙コーナーが限られているのだ。もしかしてこのエリアを選んだのは目と鼻の先に喫煙コーナーがあるからだろうか、と和波は気づいた。


「草薙さん、タバコ吸われるんですね」

「ああ、ごめんな。苦手か?」

「いえ、気になっただけです」

「ちょっと吸いたくなるんだ。駄目だとは思うんだけどな」

「あはは」

「ほんとはビールといきたいんだけど、さすがに手が出ない」

「さすがにやめてくださいね、営業中は」

「飲酒運転で捕まってplaymakerの正体ばれたらしゃれにならないからな、絶対しないから安心しろ。とはいえやることがある日もだめだから、実質酒にはなかなか手が出せないんだよな。もう1人くらいいてくれれば俺もゆっくり飲めるんだけど」

「そんな理由でお姉ちゃん勧誘してたらはったおしますよ?」

「あはは、さすがにそれはない。和波さんはいいビジネスパートナーってやつだな。恋愛絡むとうまくいかなくなるタイプだ」


聞き捨てならない話だと和波はどんどん不機嫌になっていく。どういう意味だと問いただす眼差しに、おっとやぶへびだった、と草薙は逃げるようにトレーラーをあとにした。はあ、とため息をついて和波は店番を再開する。あのとき探っていた携帯灰皿はあまり吸わないのか汚れている様子はない。我慢できなくなると吸いたくなることがあるのだろう。

しばらくすれば草薙が戻ってきた。結構吸ったのかタバコ特有の香りをまとっている。和波は別に気にならない。遊作はあまり好きではないらしく、和波がいるときは調子に乗って本数が増えているのかもしれない。ぱんぱんになった灰皿を懐にしまい、草薙はエプロンを着け準備を始めた。


「大人っていいですね、そういうのに逃げられるから」

「遊作と同じこというんだな、子供なんだからないていいんだぞ」

「草薙さんもイイと思いますよ」

「あれはノーカンだ、ノーカン」


草薙は苦笑いする。


「遊作は不機嫌になるんだ、俺が大人だって意識せざるをえないから対等じゃないっていわれてるみたいだって」

「あー、藤木君らしいですね。草薙さんとは対等でいたいって思ってそう」

「本人は復讐鬼のつもりなんだろうがな、どう取り繕ってもいいやつなのは拭いようがない」

「なんで隠すんですかね。デュエル大好きなのは事実でしょ。終わるまでは楽しんじゃ駄目ってやつかな、ほんと潔癖だな。冷血になりきれなくて、優しさがにじみ出てるところとか、いいとこだとは思うけど」

「みんながみんな、お前みたいに割り切れるわけじゃないんだよ、ゴースト」

「そお?ボクはそのときそのときを全力で楽しんでるだけだよ」

「何も考えてないっていうんだよ、それは。お気楽なやつめ」

「ボク自身、ロスト事件の首謀者たちはグレイ・コードの資金源でもあったから最終目標ではあるけどね。ハノイの騎士やSOLテクノロジー社がどーでもいいのは事実だもの、ボクが喧嘩うってるのはHALがそうしろっていうからだ」

「イグニス、いやサイバース?ゴーストはそっち側ってことだよな」

「お姉ちゃんがSOLテクノロジー社側だから表だって動けないんだよ、しかもボク自身リンクヴレインズ以外じゃ自由に行動できないし。あーもうめんどくさい。ぜんぶふっとんじゃえばいいのに」

「お前が言うと冗談に聞こえないからやめろ」

「あいてっ」


デコピンをかまされた和波は真っ赤になった額を抑える。


「ううう、ひどいなあ。playmakerといい草薙さんといい、どうしてこっちのボクになった途端、口より先に手がでるのさ、ひどくない?」

「誠也君のときにあった気遣いや優しさがどっかいっちまうからだよ」

「えー、それが嫌でボクゴーストしてるんだよ。無茶言わないでよ」

「まじかよ、そっちが素ってか?どこまで失望させるんだ」

「勝手に勘違いしてるのはそっちだろ。AIが作り上げた和波誠也を演じてるってぶっちゃけたのに、そっちが素なんだと思ってる方がおかしくない?」

「ここまでひねくれてるとは思わなかったんだよ」

「いたいっ!さっきより力込めてない、草薙さん!?痕できたらどうしてくれるのさ」

「お前が悪いんだよ、お前がな」

「なんで!?」


ぎゃいぎゃい騒いでいると遊作がようやく帰ってきた。


「なに騒いでるんだ、アンタら」

「あ、お疲れ様です、藤木君」

「おかえり、遊作。居残りお疲れさん」

「ああ、思ったより時間がかかってごめん。なにかあったか?」

「なんもないですよー、ゴーストは出ないし、ハノイの騎士やSOLテクノロジー社にも動きは無しです。あえていうなら草薙さんがタバコすってたくらいですかね」

「おいこら誠也君、それは言わない約束だろ」

「約束はしてないです」

「……草薙さん、なにかあったのか?アンタがタバコを吸うのは思うところがあるときだ」

「いや、なんでもないんだ。ほんとにな、なんでもないんだ」

「……」


不満げな遊作に草薙は冷や汗が伝う。誰のせいでタバコが増えたと思っているのだ。


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