憑依學園剣風帖50

うっかり伝え忘れていたのだが、あの化け物は吸血鬼と同じ特徴があるから、太陽がでているあいだは活動しないと私は龍麻たちに電話をいれた。さいわいみんな就寝前だったので無事だと確認できてなによりである。

たしかに見た目は吸血鬼とは程遠いがいくつか共有する点はある。奴らのような生き物を統合したものが吸血鬼として語り継がれているのか、それとも吸血鬼は別の種族として存在していて、たまたま同じ性質を持っているのかはわからないけれど。

マリア先生が吸血鬼だと知りながら、私はあえて言葉を濁すのだ。知りえない情報は見て見ぬふりをするに限る。マリア先生の夢である人間に対する復讐に加担することはできない。

《星の精》という名前だったと伝えたところ、桜井と美里が嫌そうな反応をした。そりゃそうだ、名前からはディズニーの気配がするのに実際は星から来た見えない生き物、血をいっぱいに吸ったうごめくゼリーの生命体である。しかも無数の触手が伸び、その先端に血をすうための口がついている。頭も顔もなく、あるのは心臓のように鼓動する触手とカギづめである。そんな夢に出そうな化け物ですら血は赤い。クスクスという気味の悪い笑い声とサラサラという砂が流れるような音で居場所の検討をつける事ができる。不幸な被害者がいればもっとわかりやすくなる。

彼らは日光に弱い。水の上を渡れない。鏡にも映らない。死なない。人間の血を欲す。銃撃はあまり効果がない。

倒したんじゃないのか、と言われそうだが、深きもの達だって不死の存在だ。倒れて動かなくなったから倒したと思っただけで、きっと今ごろ復活して密偵を再開しているに違いないのだ。

時諏佐邸で一応調べてみたが、《如来眼》では怪しい存在は見つけられなかった。

血を与えると、何者かわからない輪郭が見えてくる、全体が赤くて、赤い滴がしたたっていた脈動しうごめくゼリー状の塊。波うつ無数の触手のついた深紅の塊のような胴体。そして、触手の先端についた禍々しい口。宇宙から来た見えない生き物。血を吸ったために、見えない姿が見えるようになる、透明人間の亜種みたいな存在。

一体誰が、という疑問はつきない。《星の精》は《妖蛆の秘密(ようしゅのひみつ)》という魔導書にでてくる。16世紀の半ばに、ベルギーの錬金術師であるルードウィヒ・プリンにより執筆された。 彼は自称第九次十字軍の生存者で、中東で魔術を学んだという。 異端審問で処刑される前に獄中で執筆したのがラテン語原本である。 教会に発禁処分を受けたが、あんのじょう逃れた本が闇で出回ることになる。

シリアやエジプトなど中東方面の異端信仰や魔術について書かれており、「サラセン人の儀式」という章には古代エジプトの秘術が記されている。

主な記述は、エジプト神話の神様 オシリス、セト、アヌビス、セベク、ブバスティス、ニャルラトホテプ 、暗黒のファラオネフレン=カ、蛇の神様 イグ、ハン、バイアティス 、「星の精」の召喚方法(後述) 。

「《ニャルラトホテプ》だったらやだなァ......せっかくヒュプノスが領土のドリームランドに繋がりかけたのを阻止してくれたのに......。十字軍繋がりでローゼンクロイツあたりだったらまだ......うーん」

まだ情報がたりなさすぎる。私は判断を先送りにして寝ることにしたのだった。



翌日




今日はいよいよゆきみヶ原高校と弓道部の練習試合があると桜井がはりきっている。蓬莱寺は桜井が遊びに行くのはいつもその学校の友達だと聞いたことがあるはずなのに、どうやらそこまで考えたことがなかったらしい。荒川区にあるお嬢様校だと蓬莱寺が騒いでいる。都内でもお姉ちゃんのレベルが高いと噂だなんだ、紹介してくれとねだっては桜井ににのべもなく断られていた。

「なんだよいきなりッ!
今までそんなこと言ったこともなかったクセにッ!京一にだけは紹介するつもりないけどさッ!」

「んだと〜ッ!?だって盲点にも程があるだろうがッ!まさかこんな男にお淑やかなお嬢様の友達がいるとは思わなかったんだよッ!!」

「誰が男だッ!!」

ちなみに桜井の友達は雛川神社の双子巫女、つまり如月と私の幼馴染なのだがいずれわかることだから言わないことにする。せっかく京一が昨日はなかった怪我の違和感を帳消しにするために騒いでくれているのだから話を折る必要はないだろう。

むくれた桜井は緋勇をみた。

「京一はほっといてッ!ひーちゃん、ボクの高校最後の試合、みんなと一緒に見に来てくれる?」

「え?あ、ああうん、もちろん」

えっ、という反応をしたのは美里だった。醍醐もぴしりと固まっている。ぽかんとしていた緋勇だったが、桜井が美里をみながらいたずらっ子みたいな笑顔を浮かべたので焚き付ける気なのだと気づいたらしい。なかなか前に進めない親友の背を押したいらしいが、それは悲しいかな醍醐に甚大なダメージを与えていた。

「転校してきた日にいってたよね、アダ名はひーちゃんだって」

「ふはッ、そーいやそうだったなッ!ひーちゃんかッ!いいじゃねェか、ひーちゃんッ!醍醐も呼ぼうぜ、ひーちゃんってさ」

「い、いや、さすがにひーちゃんは......」

「葵ちゃんも呼びましょうよ、ひーちゃん」

「ま、槙乃ちゃんまで......」

おろおろしている美里である。

「じゃあボクと京一と槙乃がひーちゃんねッ!」

「俺はどっちでもいいけど、それだと合わせて呼ばないと馬鹿にされてる感半端ないなこれ」

「じゃあボクはさっちゃん?」

「ほーちゃんかァ?きょーちゃんのがいいな。近所のおばちゃんに呼ばれてるみてーだけど」

「とーちゃ......ダメですね。まーちゃんで。あ、でもこれだと翡翠君もきーちゃんになっちゃうなァ......」

「うげッ、そーいや如月もきーちゃんになんのか?」

「龍君はダメですか?」

「はい、けってー!葵も呼ぼうよ、ひーちゃん」

「も......もう......小蒔......」

「まあまあ、葵は好きなときに呼ぶだろ。そんな急かすなよ、さっちゃん」

「はははッ、いよいよ男みてーだな、小蒔ッ!」

「誰がだよッ!」

「......なんかごめんね、た、たつま......」

緋勇は嬉しそうに笑った。

「もうそんな時期なんだな。頑張れよ、桜井」

「うんッ!えへへ、よかった。ボクがんばるよッ!なんたって醍醐クンに大事なお守り借りちゃったしねッ!」

桜井は醍醐が連戦連勝を重ねてきたお守りを借りたのが余程嬉しかったのか私達にも見せてくれた。

「タイショー、女に渡すプレゼントにおまもりはねーだろ!もっとまともなもんはなかったのか!」

「な、な、違うからなッ!?あのお守りは由緒正しき───────」

「あーはいはい」

「龍麻までッ......くそッ......」

「あーあー拗ねちまったよ、醍醐。おい、どこ行くんだよ、大将ッ!あーあー行っちまったぜ。からかいすぎたかな。まったく世話がやける野郎だぜッ。おい、醍醐!お前会場の場所知ってんのかよ、おーい!!」

「うふふ。口ではああいってるけど京一君、醍醐くんと小蒔のこと気にかけているのね」

「そうだな、すごく心配してるのがよくわかるよ。絶対認めないだろうけど」

「あの......龍麻はどう思う?2人のこと」

「凸凹コンビだけど案外上手くやるんじゃないか?」

「そうね.....うまくいくといいんだけど。ほら、小蒔って人のことには鋭いのに、自分のことになった途端に結構鈍いところがあるから。私たちもそろそろ行きましょうか」


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