炎の転校生3

受信日:2004年9月2日
送信者:転送者
件名:FW:よかったですね!
天香學園サーバーより七瀬月魅さんのメールを転送します。

昨日の真夜中に八千穂さんから電話で聞きましたよ、江見さん!お父さんの行方がわかるかもしれないんですね、よかったです!ただものではないとは思っていましたが、まさか葉佩さんが世界を股に掛ける宝探し屋だなんて驚きました。

江見さんのお父さんも有名な宝探し屋だったなんて!かなりの実力があったのに行方不明になるなんて、學園内にそん なにすごい遺跡があるなんて知りませんでした。でも、専門家が一緒ならこれ以上に心強いことなんてないですよね!

これでお父さんの行方がわかるといいですね。

私は転校初日からずっとお父さんの行方を探すために、岡山県から一人でこの學園にやってきて、休み時間や放課後をぜんぶお父さんの消息を探すために費やしてきた貴方を見てきました。

図書室、職員室、生徒会室まで探してもめぼしい資料が見つからず、失意のまま夏休みに入ってしまったとき、このまま二学期になったら転校してしまうのではないかと歯がゆくて仕方なかったのです。一緒に探すと言っても私にできることなんてほとんどありませんでしたから。

実は江見睡院先生と聞いたとき、江見水陰という作家さんが真っ先に浮かんだので、そちらからアプローチしたらいいのではないかと思っていたのですが、江見は岡山県だけにある苗字ではないし、たまたま同じ異口同音の名前だったら期待させるだけだと思って言えませんでした。

葉佩さんの話だと私の勘は正しかったようですね。貴方が江見忠功さん(ご存知だと思いますが江見水陰さんの本名です)の縁者かどうか聞くだけでよかったのに結果的に遠回りになってしまいました。本当に気が利かなくてごめんなさい。

もし江見睡院先生の行方について新しいことがわかって、少し學園生活に余裕が出来たなら、江見水陰さんの生家に住んでらっしゃるとのことなのでそちらのお話を聞かせてください。

それと、《ロゼッタ協会》という団体について調べてみたのですが、ホームページがあるあたり、世界中にパトロンがいる国際的にみて最大規模のギルドのようですね。

本来墓荒らしや盗掘とされる活動にもかかわらず堂々と活動しているのも納得のバックアップ体制です。そこからあなたのお父さんや葉佩九龍さんが派遣されるなんて通りでうちの学校には新任の先生や転校生が多いはずです。

そんなに重大な遺跡が眠っているなんて、考えただけで夜も眠れません。

葉佩九龍さんからお父さんの消息を探すために遺跡の探索に同行させてもらえると聞きました。八千穂さんも約束したそうですね。よければなんですが江見さんからも葉佩さ

容量をオーバーしました。

似たような状況のメールがたくさんあり、電話が何件か入っていた。

「......大変だわ、急がなきゃ」

メールを受けとった私は葉佩や皆守に捕まらないように朝一で学校に向かう。校舎があいたばかりのまだ誰もいない廊下を走り、階段をあがり、私は図書室にやってきた。既に扉はあいていた。

朝の7時を知らせる鈴が鳴り響く校舎内にて、いつもは生徒達の廊下を歩く騒がしい音と声が、打たれた頬の火照りにひりつくようにひびいてくるはずが静まり返っている。ただでさえ図書室は静かな場所だが、今は私の靴の音が特に響いているくらい特別静寂につつまれていた。古い本の匂いと秋になったばかりのまだ暖かい陽気がこもっている。

淀んだ紙の匂いがした。図書館の分類用ラベルを貼る作業におわれている月魅がそこにいた。扉を開ける音がしたから顔を上げる。私をみとめるやいなや笑顔になった。

「古人曰く――、『知識のない熱心さは、光のない火である』。図書室にようこそ、江見さん。お待ちしてました」

「そりゃ、あれだけ転送失敗しまくりのメールと電話が来たらいくよ」

「えっ......あ、やだ、私そんなに長文送っていましたかッ!?ごめんなさい。電話に出ないから待ちきれなくてつい......」

はずかしそうに月魅は謝ってくる。私は首を降った。

「よくよく考えたら江見さん、いつもと違って真夜中に葉佩さんたちと墓地にいったんだから寝てますよね!ごめんなさい、3時になったら電話に出てくれるとばかり」

「あの後墓守のお爺さんに見つかっちゃってさ、寮に帰ったはいいけど皆守にずっと怒られてたんだよ。ごめん」

「そうでしたか、お疲れ様です。皆守さんて、見かけによらず規則を守る模範的な生徒ですよね。私も注意されたことがあります」

「えっ、今なんて?」

「実は......」

私は月魅が文学少女な見た目とは裏腹に覚悟を決めたらかなり行動派だと思い知ることになる。なんと私の手伝いをするようになってから、墓地にいって江見睡院と書かれた墓地をなんとか特定できないかとこっそり調べていたらしい。そのときに皆守に見付かって、なにかあったら私ややっちーが悲しむからやめとけと帰されたらしい。

そういえば4月頃月魅が真夜中墓地の周りをうろうろしてるけどなにしてんだあいつと皆守がボヤいてたなあ。私が遺跡に近づかないか夜な夜な監視してたから、たまたま見つけちゃったんだろうなあ。

だいたいの内容を把握した私はブワッと汗が吹き出すのがわかった。あぶない。あぶないにも程がある。誰もまきこまないように、深入りしないように、わざわざ単独で墓地に潜り、日中は正攻法での調査に絞って行動していたのにまさか綱渡り状態だったなんて。私は大きく息を吐いた。

なるほど、だから私から葉佩に連れて行って欲しいと仲介をお願いする文面になるわけだ。葉佩が宝探し屋だと知っていよいよ我慢出来なくなったんだろうなあ。私は頭が痛くなってきた。

「ごめんなさい、江見さん。あなたにそんな顔をさせるためにしたかった訳じゃないんです。でも、やっぱり皆守さんのいう通りでしたね」

「ほんとだよ......オレのいない所で、オレのためとはいえ危ないことしないでほしいな。一言相談して欲しかったよ」

「そのとおりですね、ほんとうにごめんなさい。八千穂さんと貴方が私に頼ってくれたとき、とても嬉しかったんです。なんとか力になりたかった。なのに一学期の終わりごろはほとんど打つ手なしの状況だったじゃないですか。ほんとうにいたたまれなかったんです」

「そっか......。ほんとうに嬉しいよ。ありがとう」

私はいつの間にか月魅にとても気にかけてもらえていたことが嬉しくてたまらず噛み締めていた。そうでもしないと口元が緩みそうだったからだ。

「はい」

月魅はホッとしたように笑った。

「あ、そうだ。それでですね、江見水陰の書籍を探してみたんですが、寄付された文献を沢山みつけたんです。もしかしたら、あなたのお父さんの残したなにかがあるかもされません。あなたのご実家から寄付されたようなんです」

「ほんとうに!?」

「はい。やっとお役にたてて、私も嬉しいですッ!何でも聞いてください。古人曰く『この世は一冊の美しい書物である。しかしそれを読めない人間にとっては、何の役にも立たない。』本には、古人の残した多くの有益な言葉が記されています。きっとこの中にはあなたの力になるものがあるはずですから」

「よかった......これでまた調べられるな」

「そうですね」

私がカウンターに近づいていくと、月魅が生き生きとしているのがわかる。

「実はですね……。八千穂さんから葉佩さんのお話を聞いて、いても立ってもいられなくなって」

出してきたのはデカいダンボール箱だ。

「私が3年間の間にこの図書室からかき集めた文献です。この天香學園にも何か大きな秘密が隠されているような気がしていました。墓地が怪しいと。それが当たっていたわけです。しかも葉佩さんはそれを知りたがっている」

わあい、楽しそうだなあ。

「あなたもそう思いますか?ふふ、私たち気が合いますね」

私は笑うしかないだけである。

「書庫室に収蔵されているこの學園の歴史などが記された古い文献を読んでいると、いたるところにそういう謎めいた痕跡が残されています。実は何度か、墓地に行ったことがあるのです。でも、何も発見できなくて。葉佩さんとあなたとなら、何か見つけられそうですね。今度一緒に墓地に行ってみませんか?」

「七瀬、本命はそれだろ」

「だ、だだだって、だってですよッ!?確かに墓地への立ち入りは校則で禁止されています。けれども! あの墓地には歴史的な発見があるかもしれないのです!時には危険を顧みない勇敢さも必要なのではないでしょうか!葉佩さんにあなたがお父さんの行方を探して同行するのはわかります。わかりますが、八千穂さんも行くなら私も行きたいです!」

「うーん......でもやっちーのスマッシュは強力だけど七瀬歯運動からっきしだっていってなかった?」

「うっ......それは......。けれども、もしこの學園に超古代文明の遺産が眠っていたとしたら!その遺産はきっと発掘される時を待っているんですッ。多少の危険を冒してでも探してみるべきではないでしょうか?」

「ほんとに七瀬は《超古代文明》とかオカルト分野になると目の色が変わるなあ」

「江見さん......」

「葉佩、七瀬みたいなやつ大好きだと思う。内気かと思いきやめちゃくちゃ行動派だし」

「それじゃあ!」

「まあまあ待ってほしいな、七瀬。墓地に近づくの初めてじゃないってならほっといたら勝手に行きそうなのはよくわかったから。とりあえず葉佩に聞いてみよう。話はそれからだよ。まあたぶん即答でOKだとは思うけどさ」

「はい!」

下手なことされて《実行委員》や《生徒会》に月魅が目をつけられてる今、攻撃対象にでもされたら葉佩の探索に致命的な被害が出かねない!私は必死だった。

「ありがとうございます、江見さん。私ったらつい......」

恥ずかしそうに月魅は笑った。照れた顔が一番可愛いと思う。

「とりあえず待っててくれないか」

「わかりました。結果、早く教えてくださいね」

まさかの七瀬月魅、加入時期早まりすぎ問題である。えっ、どうなるんだろう、これ。明らかに私のせいだからこればっかりはどうしようもないんだけど。
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