スケール0 イッツショータイム!
『アクション・フィールドをセッティング。フィールド魔法、《アミューズワールド》を発動します。このカードには2つの効果があります。ひとつめは、このカードがフィールド上に存在する限り、アクションカードを使用することができます。アクションカードは1ターンに1枚しか手札に加えることができません。このカードはこのカード以外の効果を受けません』

アクションデュエルのデュエルフィールドは、MAIAMIというロゴが入ったアミューズメントパークと化す。見渡す限り、さまざまなアトラクションが広がり、軽快なリズムが流れ、行きかう人々は中央に位置するメイン広場にいる2人のデュエリストをみて、足を止めはじめる。人だかりができ始めた。そのうちの一人である青年は、うげえっという顔をして、あたりを見渡した。そして、いろとりどりの風船が飛んでいく空に向かって叫んだ。

「おーい、スタッフさん、なんすかこれ!おれ《星の聖域》にしてくれっていったのに!」

『ごめんね、城前君。館長がこっちにしてくれっていうからさ』

「は?」

「ああ、そうだよ。アタシが≪アミューズワールド≫に書き換えろって言ったのさ、悪く思わないどくれよ、城前」

「はああっ!?なんでっすか、館長、なにこれいじめ?おれ、《アミューズワールド》嫌いなんすけど!」

「馬鹿いってないでデュエルディスク構えな、城前。このアタシを捕まえて、デッキ調整するってんだ、これくらいは必要経費だろ?」

「まじかよ!いったいどういうことだ、応えろ館長!」

「アンタがどれだけ真面目にデッキ組んだか、どれだけ戦略を練ってきているのか、見せてもらうよ!ここから出たけりゃ、アタシの屍を超えていけ!」

「いいぜ、オレ好みの答えだ!さあ、よからぬことを始めようじゃないか!」

「あっはっは、勘のいい子供は嫌いだが、空気を読む大人は大好きだよ!」

「さあ、始めようじゃないか!戦いの殿堂に集いし決闘者たちが、モンスターとともに地を蹴り、宙を舞い、フィールド内を駆け巡る!見よ、これぞ、決闘の最強進化形、アクション!」

「「デュエル!!」」

「先行はアタシがいただくよ!手札から強欲で謙虚な壺を発動!このカードは1ターンに1度だけ、自分のデッキの上から3枚めくり、その中から1枚選んで手札に加え、その後残りのカードをデッキに戻すことができるのさ。ただし特殊召喚は行えなくなるけどね!アタシのひいたカードはヴェルズ・サンダーバード、マクロコスモス、強制脱出装置の3枚。アタシが加えるのはヴェルズ・サンダーバードだよ!」

「露骨にメタってきやがったな、館長この野郎」

「あっはっは、なんとでもいうがいいさ。アタシは手札からライオウを召喚するよ!このカードがフィールドに表側表示で存在する限り、お互いドロー以外でデッキからカードを加えることはできないのさ!」

「マジでメタデッキじゃないっすか!」

「だから言ったじゃないのさ、どれだけ対策練って来たか見せろってね!アタシはカードを2枚伏せて、強者の苦痛を発動!城前のモンスターは、レベル×100ポイントダウンするよ!」

「除外…ヴェルズ…メタカード…嫌な予感しかしねえ!」

「どうした、どうした、びびってんじゃないだろうね?」

「まさか!」

「じゃ、見せとくれよ。アタシのターンは終わりだ!」

城前のデュエルディスクが点灯する。

「おれのターン、ドロー!おれはライトロード・マジシャン・ライラを攻撃表示で召喚する!頼むぜ、ライラ!」

白いローブをまとった女性が実体となって現れる。正義のためなら悪魔と呼ばれるものたちとも契約し、それを行使する攻撃魔法特化の武闘派は、城前に従い、杖を掲げる。魔法陣が出現し、あざやかな光と共に現れた歪な者たちが遊園地に舞いあがる。空を俯瞰し、アクションカードの位置を知らせてくれた。マッピングが城前のデュエルディスクに表示される。その効果ゆえに有利な魔法を探知してくれるライラは、有用なカードを感知したようで、召喚獣を派遣する。


「おっと、面倒な効果は使用させないよ!強制脱出装置だ。デッキに戻ってもらおうか!」

「くっそー。おれは手札を1枚伏せ、ターンを終了する」

「あっはっは、大したことないね!アタシのターン、ドロー!アタシはヴェルズ・サンダーバードを召喚するよ!さあ、バトルだ、2体でダイレクトアタック!」

「いってえな、くそ!だが、ただじゃ終わらねえぞ!ヴェルズ・サンダーバードの攻撃を食らったこの瞬間、おれはトラゴエディアを守備表示で特殊召喚する!」

「ちい、まあいいさ。バトルは終了だ。ヴェルズ・サンダーバードとライオウでオーバーレイネットワークを構築!さあ現れよ、アタシの僕!ランク4!励輝士ヴェルズヴュート!効果を発動させてもらおう、さあ消えな、トラゴエディア!」

「はあっ!?おいおい、館長!おれのデッキ調整に付き合ってくれてんだよね?なんで全力で潰しにかかってんだよ!」

「あっはっは、無様だねえ。その貧弱な運命力は相変わらずときた。防御カードひけないアンタが悪いのさ!アタシはカードを2枚セットして、これでターンエンドだ!」

「ああ、たしかにおれの運命力は死んでるさ。なら、館長、あんたの運命力を見せてくれよ!おれのターン、ドロー!おれはエクスチェンジを発動する!さあ、手札を見せてもらおうか」

「手札交換カードとか、まったイヤラシイカードを!」

「手札アドを分かってくれる館長は大好きだよ!さあ、このカードは使わせてもらう!」

「どのカードもアタシには役に立たないとかね……まあ仕方ない。アタシはこれにしようかね」

「よっしゃあ、フィールドにセットしていた死者蘇生を発動!蘇れ、トラゴエディア!そして、ふたたび蘇れ、ライラ!今度こそ、頼むぜ!今回はトラゴエディアも協力してくれよ!」

「残念、これも強制脱出装置だよ。トラゴエディアには戻ってもらおうか」

「またかよ、館長!除外カード全然でてこないじゃねーか、事故ってる?つーかさ、アクションデュエルなんだからアクションしろよ!不動のデュエリストじゃあるまいし」

「うっさいねえ、まだアタシの動くときではないからさ!」

「なにいってるの、この人。よーし、サンキュー、ライラ!おかげでアクションカードが手に入ったぜ!おれはカードを2枚伏せてターンエンド!ライラの効果でデッキからカードを墓地に送る!やっとだよ……!」

「アタシのターン、ドロー!アタシは強襲のハルベルトを召喚!さあ、いくよ。ハルベルトでライラに攻撃だ!」

「それにチェーンして発動、お待たせしました、本日最初で最後かもしれないアクションカード、その名はエクストリーム・ソード!ライラの攻撃力がバトルフェイズ中は1000ポイントアップする!さあ二刀流で返り討ちだ、ライラ!」

「そうはいくかってんだ!アタシは禁じられた聖槍の効果を発動!対象はライラだ!さっさと消えちまいな、正義の光!」

「腕2本なんだから3本も武器は持てないだろ、いい加減にしろ!せっかく攻撃力アップしたのに、聖槍持ったら他の魔法罠の効果受けないじゃねーか、エクストリーム・ソードもったいねえ!何度も何度も妨害ばかり、それだけしかできないのか、館長!なんでおれに気持ち良くデュエルさせねえんだ!」

「そういうデッキだから問題ないね!悪いのは防御札が未だにひけないあんたの運命力だろって話さ!お祓いいったらどうだい、城前?」

「わりと、それ、おれも考えてるところだった!よし、フィールドがら空きになった!巻き戻しで攻撃宣言されたから、チェーンしてトラゴエディアを特殊召喚する!」

「また巻き戻しだね。トラゴエディアに攻撃だ、ヴェルズヴュート!」

「くっそ」

「アタシはカードを1枚セットして、ターンエンドだよ」

「おれのターン、ドロー!おれはトラゴエディアとライトロード・ウォルフを除外し、カオス・ソーサラーを特殊召喚!効果を発動する!次元の彼方に消えてもらおうか、ヴェルズビュート!」


「ちい」

「そして、おれはライトロード・アサシン・ライデンを召喚、効果を発動する!墓地にカードをおくる!ライトロード・ビースト・ウォルフはデッキから墓地に送られた時、特殊召喚される!」

「やっとまわり始めたみたいだね。だがそれにチェーンに発動するよ、虚無空間!特殊召喚は無効だよ!」

「事故ってるのはお互い様だろ、除外カード全然こないじゃねーか、館長!おれはアンタのカードはありがたく使わせてもらうぜ!おれはセットしていたハーピィの羽箒を発動する!よし、これでバックはがら空きだな!」

「くっ・・・・・・・勝負はあったみたいだね。さあ、城前のモンスターども、アタシにトドメをさせ!」

「言われなくても、そうさせてもらうぜ!おれはレベル4のウォルフとレベル4のライデンでオーバーレイ・ネットワークを構築!正義の使徒を先導する女神よ、我が祈りを聞きたまえ!そして正義の鉄槌を!エクシーズ召喚!こい、ランク4!ライトロード・セイント・ミネルバ!エクシーズ素材を取り除き、効果を発動する!おれはデッキからカードを3枚墓地に送る!よし、おれは墓地のライラとネクロ・ガードナーを除外!光と闇が交わる時、終焉の光が世界を襲う。混沌を司る竜よ、雷鳴と共にその姿を現せ!永年の牢獄から降臨せよ!混沌帝龍(カオス・エンペラー・ドラゴン)、終焉の使者ぁっ!さあ、ダイレクトアタックのお時間だ!」

城前の勝利を告げるブザーが鳴り響き、ソリッドヴィジョンによって実体化している観客からも歓声が飛ぶ。お疲れ様でした、というスタッフの声に、おう!とかえした城前を待っていたのは、やるじゃないか、と満足そうな館長の笑顔だった。

「どうやら会場の整備は上々みたいだねえ。テストプレイ兼デッキ調整お疲れさま。さーて、あとはセッティングだけときた。うちの貴重な男手として頑張ってく入れ給え」

がしがし頭を撫でつけられる。うぎゃっと城前は逃げ出そうとしたが、ホールド掛けられて逃げられない。

「やめてくれよ、館長!せっかく決まったのに、くしゃくしゃになるじゃねーか!」

「あっはっは、こっちのがサマになってるじゃないか!放送室の整備も終わったし、アクションデュエルの設備も問題ないし、あとは業者への引き継ぎだけだね。あ、もちろん、アンタは手伝うんだよ城前。働かざる者食うべからずだ」

「わかってらー!いちいちうっせーよ、おれはアンタの子供じゃない!」

「そーだね、アタシもこんなでっかい子供産んだ覚えないよ、そもそも独身の女にそんなこというんじゃないよ、バカだね」

「いや、身元不明のおれを雇ってる館長にいわれたくねーわ、おれ」

「あっはっは、それについてはノーコメントだよ、城前。アタシは雇われ館長だからね、オーナーに聞いとくれ。むしろアタシが知りたいよ、身元不明のアンタの後見人になるとか金持ちの道楽はやっぱ頭おかしい」

「そのオーナーって実在するんすか、館長。おれがここに来てから一度も会ってないんですがそれは」

「会いに行ってもいいんじゃないかい?なにがあってもアタシは知らないけどね」

「なにそれこわい」

「まあ公然の秘密ってやつさ。ここの金持ちがおかしいのは今に始まったことじゃないからね」

さすがは雇われ館長だ、長いものには巻かれろ精神にはしびれるあこがれると城前は思った、主に訓練された社会人的な意味で。久しぶりの大会に気合を入れすぎて、うっかりMAIAMI市にやってきた城前は、大会で優勝してからようやくアークファイブの世界に迷い込んだことに気付いた剛のものである。その大会の主催がここの運営をしているとある裕福層だった。その縁で社会人から高校生くらい(推定)にランクダウンしてしまった城前は、デュエル史料館に住み込みのアルバイトをしながら、学校に通っている。ちなみにこのデュエル史料館、繁栄を極めたデッキを中心にカードプールやデッキの変遷が回覧できるため、ワンキルデッキのメッカとされている。エラッタ前のカードが展示されていたり、当時の映像が見れたり、実際に当時の悪夢を体感することができるので、通称ワンキル館と呼ばれていた。

ここは若くして死んだとあるデュエリストの自宅兼デュエル史料館である。相続した裕福層がいろいろな対策のため、コレクションを一般公開するために増改築された施設なのだ。一般開放する代わりに私営の史料館になった。と思ったら、アクションデュエルが流行り始めたから、増設して貸館出来る施設まで作ってしまった人がオーナーのようである。デュエル史料館としては人員もいるが、貸館業務はまだ手探り状態のため、アルバイトなどを募集しているらしい。主にアクションデュエルの整備代を浮かせるためのテストプレイ要員兼ワンキル館の宣伝要員兼雑用係として城前は雇われている。城前にとっては衣食住と後見人確保は渡りに船だったのだ、主に慈善事業にも力を入れてる裕福層の庇護下に入れたのはひとえにデュエルモンスターズさまさまである。

ちなみに城前の上司である館長はその若くして死んだデュエリストの恋人だったのか、親戚なのか、実はオーナーなのか、ここの敷地内の住宅域に住んでいる。本人曰く雇われただけの中途採用組なわけがないのだ。城前は身元引受人と共に住んでいるという名目で、ほとんど館長と暮らしている。未だに恩人であるオーナーとあえていない、すべての話は代理人という弁護士か館長と旧知の中で管理を任されている初老の男性としか話していないのだ。おかげで住み込みのバイトとして馬馬車のごとくこき使われていた。

「ありがとーございました」

「よーし、アタシ直々にデッキ調整に付き合ってやったんだから、戦利品は献上するように!いつものように展示するからね、大事に持って帰るんだよ」

「アイアイサー!」

大会の記念品は希少価値が高いらしく、城前からの寄付という形で展示スペースが設けられていた。大会やイベントの会場となったお礼にもらえるパックの処分に困っていたという体で、いろんなカードを使わせてもらっている城前からすればそれくらいいくらでもというやつである。これから、レオ・コーポレーションの大会が迫る貴重なデッキ調整のため、自宅エリアに向かうことにした城前は、おつかれ、というスタッフに笑顔で返した。いつものように住居エリアにやってきた城前に、立ち塞がるのは立派な門構えである。ぽちっとな、と隠しボタンを押すと音声が聞こえてくる。

「ダークダイブボンバーの別名は?」

「DだれがDどうみてもBぶっこわれ、佐々木っす!」

「ヴィクトリードラゴンがでてきた時の対処法は?」

「狙え、自分のジャッジキル」

「ドグマブレードをサイバーヴァリーで説明してみなさい」

「ミスをなくせば理論上は100パーセント先行ワンキルが可能らしいけど、おれはどうがんばっても8割しか成功しなかった。サイバーヴァリーをデュエル史上最もよく使ったデッキだと思う」

「お帰りなさい」

指紋とか目とかめんどくさい個人認証に加えて、ランダムで向かえてくれる身分証明書代わりの問答集を潜り抜けると、ようやくドアが開いたのだった。大家さんである初老の男性が掃除をしているところだった。

「お帰り、克己君」

「どもっす。いっつも思うんですけど、もうちょっとまともなセキュリティってないんすか?」

「しかしねえ……克己君が克己君だと説明できるのは、デュエルモンスターズだけだろう?」

「アッハイ。そうっすよねー、あはは。忘れてた」

「レオ・コーポレーションの大会も、いよいよだね。がんばってくれよ」

「はーい、任せてください!それじゃ、部屋にこもってますんで、何かあったらいってください!」

2階の角部屋が城前の居城である。


prev next

bkm
[MAIN]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -